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2004年07月31日

ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』

02461568500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp') The Fifth Head of Cerberus (1972) / 柳下毅一郎訳 / 国書刊行会 [amazon] [bk1]

面白く読めたし、凄い作品なのだろうと思うけれど、この手の文学的に書かれたSF小説を読むとどうも、これを遠い異星というSF的な舞台設定でやる必要はあったんだろうかと思ってしまう。レムの『ソラリス』やル=グィンの『闇の左手』を読んだときも似たようなことを感じた。(そういう有名作しか読んでいない程度なので偉そうなことは言えないのだけれど)

SFの道具立て自体にあまり愛着がないと、それを文学的に高めようとする試みに共感しにくいということかもしれないし、単に星間旅行の可能性を描くことが今はガジェット以上の意味を失ってしまったということなのかもしれない。

第2部の「ある物語」は正直なところとっつきにくくて結構読み流してしまったので、もっと深く読み込める余地が色々とありそうだ。それでも第3部は謎解き的な読み方で楽しめる。(一応、殊能将之氏のネタばれ解説を覗いてみたら、似たような結論に達していた)

連想した作品は先に挙げた『ソラリス』と『闇の左手』(文化人類学系SFということで)、あと書法はスタージョンの『きみの血を』が少し似たことをやっていた気がする。

参考リンク(ネタばれ注意):

2004年07月30日

ホセ・カルロス・ソモサ『イデアの洞窟』

02463098500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp') La caverna de las ideas (2000) / 風間賢二訳 / 文藝春秋 [amazon] [bk1]

古代ギリシャを舞台にした探偵小説に、翻訳者が「直感隠喩法」なる怪しい文学理論にもとづいた電波読解の脚注を書き付けていく……というメタフィクション小説。予想通りナボコフの『青白い炎』の形式を下敷きにしたと思われる作品で、探偵小説仕立てなので読みやすいのはいいけれど、作中テキストがこの趣向のために用意されたようなものなのであまり面白くならない。

2004年07月28日

20040728

『カーサ・エスペランサ 赤ちゃんたちの家』 7月31日から公開。ジョン・セイルズ監督の新作が久々に日本で劇場公開されるのは嬉しいんですが、正直見に行くべきなのか微妙な内容のような……。

『ユリイカ』2004年8月号: 特集「文学賞 A to Z」

『小説トリッパー』に続いて『ユリイカ』も文学賞特集。

看板の記事は大森望・豊崎由美の『文学賞メッタ斬り!』コンビと島田雅彦による「Z文学賞」。対談の内容はそこそこ面白かったけれど(特に島田雅彦の発言は「一人称から三人称に転換するのは作家にとって難しい課題」という指摘など、鋭くて参考になりそうだった)、芥川賞の向こうを張った狭い範囲を何度語っても高が知れているので、新作小説全般の話も聞いてみたかった気もする。

栗原裕一郎(id:ykurihara)、仲俣暁生(id:solar)両氏の記事も掲載されていたりして、インターネット/はてな度が高い? 栗原氏の「新人賞選評一気読み」は、たぶん目を通してみたら読み物としてあまり面白くなかったんだろうなという感想。奥泉光選考委員は第5回新潮ミステリー倶楽部賞(2000年: 受賞作『オーデュボンの祈り』)では堂々たる選評を書いているけれど、それ以前はさんざん紆余曲折を経ていたことを知る。

他には、佐藤亜紀に「ファンタジーノベル大賞」を総括させるという、いわば猛犬を放って眺めるような企画もあり。

2004年07月26日

『オープニング・ナイト』

Opening Night (1978) / 監督: ジョン・カサヴェテス

冒頭から影を落とす死んだ少女の話は良くできていると思うけれど、劇中劇もので作中の演劇が見たいと思えないものだとつらいな。

前作の『こわれゆく女』もたしか精神不安定なジーナ・ローランズに周りの人が振り回される話だった気がする。これは観客が「こんなうざい女どうでもいいよ」と思ってしまうと成り立たない話ではないかと思った。

2004年07月25日

ヤン・シュヴァンクマイエル短篇集

渋谷シアターイメージ・フォーラムのシュヴァンクマイエル映画祭2004、Fプログラムの短篇集を鑑賞。上映作品は以下の通り。

自然の歴史(組曲) / 部屋 / 対話の可能性 / 地下室の怪 / 陥し穴と振り子 / 男のゲーム / セルフポートレート / 闇・光・闇

どうせならなるべくビデオレンタルで見られない作品を、ということでこれを見ることにした。

感想を言うと、思ったほど好みではなかった。チェコといえば旧共産圏なので芸術作品には必ずや政治風刺が含まれているに違いない、と深読みもできるし、それは口実で単に粘土やら何やらを使ってシュールなグロテスク描写をやりたいだけともとれる。

前半は面白いけれどパターンがわかると繰り返しに見える、という作品が多い気がする。

印象に残った作品。「部屋」はもろカフカ風の不条理もの。「対話の可能性」は特に前半部、手間がかかっているなと感心した。「地下室の怪」は『アリス』風の少女によるお使いの話。思えばシュヴァンクマイエルの作品に出てくる綺麗なものは少女だけのような気がする。「陥し穴と振り子」はもちろんポー原作なのだけど「部屋」と同じくカフカ風にも見える。「闇・光・闇」は粘土細工で人間を解体する、そのままの作品。

どの作品でもたいてい、食事という行為がグロテスクに描かれる、食べることは人間が生きることの基本だから、食をグロテスクに誇張することで人間と生を解体する、というような意図があるのだろう。

20040725

早稲田松竹の二本立て:『オアシス』『ジョゼと虎と魚たち』(7月31日〜8月6日) 『オアシス』は見逃しているので気になる。(m@stervision 掲示板より)

○というか評判を耳にするにつけ、『ジョゼと虎と魚たち』に足りないと感じたものが『オアシス』で描かれているのではないか、と勝手に思い込んでいます。

○ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』[amazon] [bk1] 、書店に並んでいました。次の週末くらいには読めるかな。

2004年07月24日

20040724

Kirsten Dunst の名前表記問題 TVで本人が自己紹介しているのを聞いたら「キルステン・ダンスト」が一番近そうだったのでこの表記にしています。(しかし、彼女は果たして美人なのか、ということに比べたらごく些細な問題のような気もする)

プリーストの『奇術師』がミステリ方面で取り上げられないという話 訳者の古沢嘉通氏の掲示板より。確かに昨年ウォーターズの『半身』があれだけ評判になったのだから、『奇術師』が話題を集めてもいいような気もする。個人的に、読んだ感想としては年末の人気投票で上位に入るんじゃないかなと思っていた。

○関連リンク: Mint Julep(2004-07-23) / はてなダイアリー - 悪漢と密偵

2004年07月23日

筒井康隆『富豪刑事』

新潮文庫 [amazon] [bk1]

大富豪の跡取りである刑事が、金に糸目をつけないスケールの大きな捜査方法で事件を解決する。いまさらながら、軽く読めて「特殊探偵」ものとして面白い作品集。

冒頭に登場するのが「アルフレッド・ヒッチコックそっくり」の警視なのからもわかるように、映画の手法を非常に意識して書かれている。普段は映画でできることを小説の形式でやろうとする話はあまり評価しないのだけれど、これだけ開き直られるとまあ別にいいか、という気もしてくる。

第三話「富豪刑事のスティング」になると(「スティング」自体が有名な映画の題名だけれど)、語り手はこう宣言しはじめる。

それならいっそのこと、話を面白くするために、小説中における時間の連続性を、トランプのカードをシャッフルするような具合に無茶無茶にしてしまえばどうであろうか。むろん、完全にごちゃまぜにするのではなく、事件のある一面だけを連続させ、それを書き終えてから他の一面を連続的に書くのである。(p.144)

これはたぶんスタンリー・キューブリック監督の映画『現金に体を張れ』を真似たものだろう。この語り手は他でも、謎解きをだらだら説明して読者のみなさんを退屈がらせてはいませんよね、みたいな弁明をしたりと、やけに小説の「時間」に介入したがる。

そういえば大金持ちがはちゃめちゃをやる、というのは1930年代くらいのハリウッド映画のパターンのような気もする。

刊行は1978年。『こち亀』の中川はこれが元なのかと思ったら、『こち亀』の連載開始は1976年で中川は開始当初から登場しているようなので、そうでもないみたい。

『青山真治と阿部和重と中原昌也のシネコン!』

02456253500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp') リトル・モア [amazon] [bk1]

三人の映画談義本。三人とも好みが似通っていて、それを他人に啓蒙しようとする気もないようなので正直なところあまり面白くない。ジョン・カーペンターとブライアン・デ・パルマを、時代錯誤だけれど愚直で愛すべき映画作家、という感じの似たような文脈で持ち上げているのが印象的。

対談の内容も些細な聞き違いや脱線まで再現されていて、もうちょっと編集して刈り込んだほうが良くはないだろうか。映画談義は5本収録されているけれど、内容を整理して倍の10本くらい収録してくれないと物足りない。

上島春彦・遠山純生『60年代アメリカ映画』

02010381500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp') エスクァイアマガジンジャパン [amazon] [bk1]

『俺たちに明日はない』の1967年からニューシネマ革命がはじまった、というような史観ではなく、1960年代の10年間を射程にして、「赤狩り」映画人の復権、ヘイズコードの撤廃、暴力描写の発展など、それぞれの論点からアメリカ映画界の変容を取り上げた10本の論考を収録。著者のひとり、上島春彦は同じ叢書の『フィルム・ノワールの光と影』[amazon] [bk1] での論考も良かった気がするので読んでみた。

全体的に文章が研究論文調で堅苦しいのと、こちらが類書を読んでいないせいでどの程度が目新しい見解なのかよくわからない、というのはあるけれど、興味深く読めるところが多かった。

個人的に納得したのは、「それは『サイコ』からはじまった」(上島春彦)での、1960年の『サイコ』とそれ以前の『黒い罠』(1957)を並べて(どちらもジャネット・リーが襲われる筋書きなのが共通する)、犯罪や暴力を雰囲気で表現するフィルム・ノワールの時代から、それらを直接描写するショッカー/ホラーの時代への移行を指摘しているところ。『キッスで殺せ』を先駆として、『博士の異常な愛情』や『鳥』、『猿の惑星』などで開花する「世界滅亡」描写に注目した「そして誰もいなくなった−−人類滅亡の唄」という論考も興味深かった。

紹介されていて見てみたいと思った作品は、イヴリン・ウォー原作(『囁きの霊園』)の『ラブド・ワン』と、ロバート・ロッセン監督の『リリス』。後者は出演俳優がウォーレン・ベイティ、ジーン・セバーグ、ジーン・ハックマンと、『勝手にしやがれ』と『俺たちに明日はない』の架け橋のように見える。

ところで、本書の冒頭に当時の代表的な映画のポスターの図版が収録されているのだけど、一番作品を見てみたいとつい思ってしまったのは『ロリータ』(スタンリー・キューブリック監督)だった。というかこれは現代では無理じゃないかと思う。

2004年07月20日

Bloglines

はてなアンテナの代替というわけでもないけれど、最近はRSS対応のウェブサイトはどちらかというとBloglinesで更新をチェックすることが多い。見出しだけ斜め読みしたりもできて便利。

RSSリーダーは自分のPCで動かす形式のもいくつか試してみたけれど、ブラウザの他に別のソフトを立ち上げるのが使いづらく、それに要らない機能が付いていたりもして、Bloglinesのシンプルな機能で充分な気がする。各個人がむやみにRSSリーダーを動かすとウェブ上のトラフィック増大を招くのではないかという話もあるようだし。

20040720

○いまさら知ったのだけど、はてなアンテナには手動更新チェッカーというのも用意されていたのか。これを使ってみたら更新が反映された。(はてな側の自動巡回が滞っているのかも)

杉江松恋は反省しる!(7/20)より、第131回芥川賞・直木賞選考経過。「伊坂幸太郎『チルドレン』は「成りすまし」がテーマ。」って、そうだったのか……?

2004年07月19日

マーティン・ベッドフォード『復讐×復習』

amazon.co.jp Acts of Revision (1996) / 浜野アキオ訳 / 扶桑社ミステリー文庫 [amazon] [bk1]

ぼくの名はグレゴリー・リン。三十五歳。孤児で独身で四歳半のときから一人っ子。

……と語りはじめるサイコ犯罪者の一人称小説で、すごい傑作とは思わないけれど面白く読めた。主人公がもういい年なのにいつまでも子供時代のことにこだわっているところなど、ジャン・ヴォートランの『グルーム』、パトリック・マグラアの『スパイダー』にいくらか通じる。

作者マーティン・ベッドフォードは英国の作家で、もう一冊、第三作の『ジグザグ・ガール』(創元推理文庫) [amazon] [bk1] が訳されている。これは奇術師が亡くなった恋人の思い出を語る小説で、この『復讐×復習』とはまったく毛色の違う内容なのだけど、語りの構造は共通するところがある。どちらの作品の語り手も、物語上の出来事を直線的に語るのではなく、迂回しながら細切れに、しかも前置きとして自分の物の見方や考え方をたっぷり織り混ぜながら語っていく。したがって物語の全貌はなかなか見えてこないのだけれど、この語りの完成度がとても高くて、本当にこういう人物がいて読者に向かって語りかけているような印象を与える。実際のところ、物語上の出来事よりも語り手の人物像を読者に印象づけることが目的になっているのではないかと思う。奇怪な犯行計画を実行するサイコ犯罪者とか、奇術を職業とする人物とか、あまり現実味のないように思える人物の語りが、説得力をもって積み重ねられるところを読むのはなかなか面白い体験で、他の作品も気になる。

『ザ・プレイヤー』

The Player (1992) / 監督: ロバート・アルトマン

ハリウッドの虚実を描いた業界内幕もの……かと思ったら、筋書きは普通のサスペンスだった。最後に何とか映画の話を絡めて帳尻を合わせているけれど、それまでは別にハリウッドが舞台じゃなくても成り立つような話に思える。有名人が次々と出てきて退屈はしないものの、期待したほどの面白さはなかった。

この時期の前後、『バートン・フィンク』(1991年)とか『ブロードウェイと銃弾』(1994年)とか、映画の内幕ものが多い気がする。流行っていたんだろうか。

『群盗、第七章』

Brigands: Chapitre VII (1996) / 監督・脚本: オタール・イオセリアーニ

オタール・イオセリアーニ特集上映「イオセリアーニに乾杯!」にて鑑賞。

カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』みたいな枠物語を使って、中世・ソ連時代・現代の時空を超えて行き来する『アンダーグラウンド』(自国の歴史をもとにした法螺話という意味で)みたいな感じ。グルジアの歴史に興味がないので政治風刺のような部分は括弧に入れざるを得ない、というのもあるかもしれないけれど、この手法だと誰か外部からこのフィルムを操っている作者がいることを念頭に置いて、その手の内を読もうとすることになる。そうすると自分には関係のない映画だなと思えてしまった。

2004年07月18日

20040718

○右のサイドバーに移転前の過去ログも含めた検索窓を付けました。

○ここ数日、はてなアンテナに捕捉されていないようだけど何か理由があるんだろうか。

阿部和重『映画覚書 Vol. 1』

02444056500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp') 文藝春秋 [amazon] [bk1]

阿部和重の映画批評集。書店で覗いてみたら、スティーヴン・ザイリアン監督の『ボビー・フィッシャーを探して』を論じているのが目に留まったので購入してみた。

その『ボビー・フィッシャーを探して』評は面白かった。主人公の少年が周囲の大人たちからの期待にすべて応え、なおかつ先達の「ボビー・フィッシャー」とは異なる彼独自の生き方を示した(それらを描くことにザイリアン監督が成功した)ことを明快に論じている。そのうち作品を見直そうかと思った。(ただし、途中でザイリアンが脚本家として優れていることを論じた部分は長いわりに論証が緩くて、いくぶん寄り道になっている)

その他では、ラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とジョン・カサヴェテスの『オープニング・ナイト』を論じた文章の着眼点が良かった。

これ以外の時評はそれほど読むところがなかった。というか、僕は例えば阿部和重らの賞賛するジョン・カーペンターの『ゴースト・オブ・マーズ』の何が良いのかさっぱりわからないので、根本的に好みが合わないのかもしれない。

余談ながら、『ホーム・アローン』よりも『ハリー・ポッター』のほうが幾分かましに見えたのは、エマ・ワトソンの見た目に騙されただけだったかもしれない(p.28)、といった記述があったりとか、対談で好きな女優を訊かれて即座に「子役時代のナタリー・ポートマン」を挙げたりというのは、『シンセミア』でロリコン警官を楽しそうに描いていた作家らしくて面白かった。(「モーニング娘。」の映画を熱く論じた項目もある)

『スチームボーイ』

amazon.co.jp 2004年 / 監督: 大友克洋

主人公が宝物(「スチームボール」)をめぐる争奪戦に巻き込まれ、それを軍事兵器に利用しようとする組織に狙われる……という宮崎駿の『ナウシカ』『ラピュタ』みたいな話を、歴史上のヴィクトリア朝英国を舞台に展開するスチームパンク活劇。宮崎アニメ的な美少女が出てこないかわりに、蒸気機関などのメカ描写に凝っているのが印象に残る。

話が似通っているのでどうしても『天空の城ラピュタ』と比較してしまうのだけれど、主人公をはじめとして愛すべき登場人物が誰ひとり出てこないのに、古典的な冒険活劇をやられても盛り上がらない。作家の資質と選んだ物語の枠組みが合っていなかったのではないだろうか。作家の趣味が大暴走した迷作というわけでもなく、中途半端に売れ線を狙って外すのも考えものだと思った。

そのうち誰か『ラピュタ』風に「〜は何度でも蘇るさ!」と言い出すのではないかと見守っていたら、やっぱりそういう台詞が出てきたのでおかしかった。

これで今年公開予定の三大アニメ映画のうち、『イノセンス』と『スチームボーイ』の二本を見たことになるけれど、どちらも「いまさらサイバーパンク」「いまさらスチームパンク」と、そのジャンルに思い入れのない者からすると一昔前の流行をなぞった時代遅れの作品に見えるのは否めなかった。CGによる緻密な世界構築を見せるために登場人物が駒として動くというような、『ファイナルファンタジー』の特に「7」以降(個人的には「7」はわりと好きなのだけれど)が陥ったのと同じような物足りなさが見られるのも気になる。ということで結局、宮崎駿の『ハウルの動く城』に期待するしかないのか。

2004年07月17日

20040717

○奥田英朗『空中ブランコ』[amazon] [bk1] 、地元の図書館を覗いてみたらすでに「予約数: 47」になっていて、さすがに直木賞の影響力はすごい。

2004年07月16日

20040716

チェス「幻の英雄」を成田で収容 入管法違反容疑で 伝説的なチェスの名手、ボビー・フィッシャー氏は日本にいたらしい。といっても僕は映画『ボビー・フィッシャーを探して』で名前を知っていた程度だけれど。

○『ボビー・フィッシャーを探して』(DVD)といえば、『ヒカルの碁』の作者はこの映画を参考にしていたのではないかという話もあって、たしかに目的を見失った主人公が立ち直るあたりの展開や、盤面の解説を一切しないで話が成り立つところなど、似ている気もする。

2004年07月15日

20040715

○折原一氏の日記頭蓋骨の裏側で紹介されている、ホセ・カルロス・ソモザ『イデアの洞窟』[amazon] [bk1] 。作中作もので翻訳者が出しゃばって脚注を書き付ける話、というとナボコフの『青白い炎』みたいな感じなんだろうか。

○今月はジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』[amazon] [bk1] も出るそうだし、楽しみな本が多い。

2004年07月14日

『ムッソリーニとお茶を』

Tea with Mussolini (1999) / 監督: フランコ・ゼフィレッリ

マギー・スミスの演じる気位の高い老婦人とシェールの演じる大らかな女性が、それぞれイギリス人とアメリカ人を代表する。このふたりを軸にして、戦時下のフィレンツェを舞台にした人情話が展開される。

老監督が自身の少年時代を思い出しながら撮った作品のようだし、まあ良い話なのだろうけど、ファシストは悪で自由と芸術を擁護する者は善、という今となってはありきたりな図式にもとづいた話なので少々物足りない。画面の感じも映画というよりTV番組のような奥行きに見えた。

フィリップ・ド・ブロカの『陽だまりの庭で』みたいに、「戦時下のちょっといい話」と見せかけてなぜかロリータ礼賛映画になる、というような意表を突いた話のほうが見ていて面白い。

2004年07月13日

20040713

チャールズ・ウィルフォードの『バーントオレンジ(仮題)』が出るらしい。扶桑社ミステリーで8月刊行予定。代表作とされる "The Burnt Orange Heresy" ですね。以前『ミステリマガジン』増刊号で滝本誠氏が熱烈に褒めていて、訳されるのを楽しみにしていた作品なので期待してます。

2004年07月12日

『ヘルハウス』

amazon.co.jp The Legend of Hell House (1973) / 監督: ジョン・ハフ

原作・脚本がリチャード・マシスンなので期待して見たのだけれど、ごく普通の幽霊屋敷ホラーに思えた。まあ、後発の作品に模倣されすぎたというのはあるのかもしれない。

科学者と霊媒がそれぞれ幽霊屋敷を調査するという形式で、妙に謎解き的な展開が出てくるのが面白い。あくまで幽霊を実体化させない演出や、各場面の日時を細かく示す趣向などからは、科学風味、実録もの的なアプローチで怪談を描こうという志向を読み取れる。

悪霊払いの仰々しい機械、無意味にわかりにくいダイイング・メッセージ、そして引っ張ったすえにそれだけかと驚愕する謎解きの結末など、ギャグすれすれの設定が生真面目に語られるのはこの時代らしくて良い感じ。

2004年07月11日

『文學界』2004年7月号

たまたま図書館に行ったら貸出可能になっていたので、時期外れだけどいくつか記事を拾い読みした。

阿部和重インタビュー「世界解釈としての映画批評」:

映画批評集の『映画覚書 vol.1』 [amazon] [bk1] が出たばかりなのでその話。いまなら言えるけどメル・ギブソンこそがイーストウッドの後継者ではないか、という話が出ていて面白い。疑似ドキュメンタリー手法の是非と『ダンサー・イン・ザ・ダーク』など、他の話題も結構興味深かった。

村上春樹はたしか、他の作家の小説を翻訳することが自分の創作をするうえで欠かせない刺激になるので、これからも創作の合間に翻訳をやり続けるだろう、というようなことを語っていた。阿部和重にとって映画を鑑賞すること、分析をすることは、その村上春樹にとっての翻訳と似た位置付けにあたるのかもしれない。

阿部和重「映画覚書」:

連載中の映画コラム。同時期のせいか上のインタビューと内容が重なっている。ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』について書いたくだりで、自分はある映画を見るとき「映画とは何か」という問題を重ね合わせて考える傾向がある、というようなことを書いているのは、僕自身もそういうことがあるので共感できる。

今回主に取り上げられている『群盗、第七章』(オタール・イオセリアーニ監督)、それと『映画覚書 vol.1』には興味が湧いてきた。何か騙されているような気もするけれど。

書評欄では日比野啓氏による『ミドルセックス』評が出ていて、良く出来ているけど欲を言うとエンタテインメントとして手練れすぎるのではないか、みたいな歯切れの悪い褒め方だった。

2004年07月10日

20040710

Movable Type 3.0 日本語版ベータ2が出たので導入してみた。

阿部和重+青山真治トークショー「世界映画の今を問う!」(2004年7月1日)(読むまで死ねるかっ) 『スパイダーマン2』とティム・バートンの話がメインだったようです。

2004年07月08日

20040708

第131回芥川賞・直木賞レースを「文学賞メッタ斬り!」が予想する 両賞合わせて候補作は伊坂幸太郎『チルドレン』しか読んでいなかった。まあそんなもんか。

真の映画ジャーナリズムとは?? ハスミン派の論者が仲間内にしか通じない物言いをしがちに見える、というのは同感です。知識があって参考になることを書いてくれそうな人もいるのに、そこでひっかかることが多いのでもったいないと思ってしまう。(とりあえず彼らの使う「アメリカ映画」という用語は、何を指しているのかわからないので明確に定義してほしいところ)

2004年07月07日

ダフネ・デュ・モーリア『破局』

The Breaking Point (1959) / 吉田誠一訳 / 早川書房

異色作家短篇集ばやりの昨今なのに、実は本家「異色作家短篇集」を読んでいなかった、ということでデュ・モーリアの巻を補完。

「アリバイ」: 主人公の怪しい語り、絵画をめぐる描写がいびつで面白い。ミステリ的な落ちが印象を弱めている気がする。

「青いレンズ」: 眼の手術によって他人の顔が獣に見えてしまうようになったヒロインの不安。これぞデュ・モーリア、という感じの精神不安が肥大していく描写が素晴らしい。『鳥』を読んだとき、デュ・モーリアという作家は、平穏な日常がどんなに脆く(理不尽な暴力=戦争によって)破壊されてしまうものなのか、という不安感を描く作家だと感じたのだけれど、その志向がそのまま出ている作品ではないかと思う。

「美少年」: これもじわじわと迫る歪んだ不安感が良い。最後のほうで唐突に「事故の恐怖、突然の死の恐怖。事故というよりも戦争」(p.150)という文章があるのが印象深い。

「皇女」: 幻の王国の崩壊を描いた寓話。読みはじめてすぐ「ハドリバーグの町を腐敗させた男」みたいな傑作かと思った。それほどでもなかったけれど面白い。

「荒れ野」: 『鳥』収録作にも似た趣向のものがあった。翻訳で読んでもあまりぴんとこない作品だけれど、「青いレンズ」と合わせて読むと少しデュ・モーリアの作品に共通するものが浮かんでくる気もする。

「あおがい」: 読みはじめてすぐ、この語り手は相当に迷惑な性格の女だとわかる「信用できない語り手」系の小説。伊井直行『濁った激流にかかる橋』に似た路線の作品があったのを思い出す。作品自体はさほどの出来ではないと思う。

何年か前に新訳の出た短篇集『鳥』が本当に秀作揃いだったので、それと較べてしまうと小粒に感じられる。印象に残っているのは「青いレンズ」と「美少年」。

2004年07月06日

『ミドルセックス』絶賛とトルコ包囲網

02424853500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp')

ジェフリー・ユージェニデス『ミドルセックス』がMint Julep(2004-07-05)で褒められていて、面白い小説なのにあまり読んだ感想を見かけなくて残念だなと思っていたので嬉しい。

他で僕が感想を見かけたのはすみ&にえさんくらいだろうか。

ちなみに僕の書いた感想はこちらに格納しています。題名や設定からジェンダーの問題が前面に出てきそうに思えるかもしれないけれど、それ以上に個人の視点から20世紀を総括する小説として面白かった。

あと、主人公の自伝と見せかけて主人公自身が生まれるまでに延々と物語が続くという構成なので、『トリストラム・シャンディ』が好きな人は必読。

これ以降は半分与太話なのだけど、このところ映画『ダスト』(2001年: マケドニア出身のミルチョ・マンチェフスキー監督・脚本)、『アララトの聖母』(2002年: アルメニア系のアトム・エゴヤン監督・脚本)と来て、この小説『ミドルセックス』(2002年: ギリシャ系のジェフリー・ユージェニデス作)と、トルコ周辺にルーツを持つ民族がトルコ軍の侵攻・虐殺によって新大陸に逐われた、という経緯から20世紀を縦断する視点を示してみせるフィクションを続けて見かけて、ちょっと気になっている。

もっとも、この三作はどれも「歴史は主観的にしか語り伝えることができない」というような(ポストモダン的?)見地を踏まえているので、単純に「トルコ=悪」と決めつけるようなことはしていないのだけれど。でもそのうちトルコ系作家の逆襲があるんじゃないだろうか、と思ったりする。

望月諒子『神の手』

amazon.co.jp 集英社文庫 [amazon] [bk1]

失踪した作家志望の女性をめぐる話。

最近、国産の娯楽小説をあまり読んでいなかったせいか、書法に慣れるのが難しかった。三人称叙述でAという人物の視点なのに別のBという人物の内面が蕩々と代弁される、つまり登場人物の視点を借りて作者が語っている感じでどんどん進んでいく。

不在のヒロインを周りの人物の視点から主人公として描き出す、という宮部みゆきの『火車』みたいな趣向の話なので、その視点の不安定さがどうも気になった。それから、ワープロの機能をめぐっての謎解きが演出としていまひとつで冗長になっていると思う。

作家志望者の生活感、あるいは不気味さがにじみ出た描写は説得力がある。中盤あたりの、ホラーに行きそうで行かない盛り上げ方が良かった。

2004年07月05日

『スパイダーマン2』

Spider-Man 2 (2004) / 監督: サム・ライミ

前作でヒーロー誕生を描いた『スパイダーマン』第二幕は、「ヒーローはつらいよ」篇。手堅くまとまっていると思うけれど、ヒーローとしての悩み、敵の出現、人命救助、すべて前作で設定した枠の範囲内に見えるので何か新たな展開がほしいと思った。何作目まで続けるかわからないシリーズものなので仕方ない面もあるのだろうけど。

キルステン・ダンストは相変わらず瞼が重そうで、もうちょっと綺麗に撮ってあげればいいのにと思う。

ピーター・パーカーの大学教官でドック・オクの友人、という役をやっているのがディラン・ベイカーだったので(『ハピネス』の親父役が強烈だった曲者俳優)、いつ彼の本性が暴かれるのかとはらはらしてしまった。

大場つぐみ・小畑健『Death Note』(1-2巻)

02422307500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp')集英社 / 1巻 [amazon] [bk1] / 2巻 [amazon] [bk1]

『少年ジャンプ』連載の知的ゲーム系バトル漫画らしいと聞いて、かつての『ジョジョ』ファンとしては目を通さないといけないかと思って読んでみたら、これは面白い。

まず何がすごいといって、少年漫画なのに主人公が第1話からすでに平然と人を殺している。『バトル・ロワイアル』のヒット以降、少年漫画でもここまで許容されるようになったということなんだろうか。何にせよ、導入部からなかなか気合いが入っている。

主人公が世間から「キラ」(= Killer)と名付けられるということで、当然『ジョジョの奇妙な冒険』第四部の悪役「吉良良影」を連想する。与えられた能力設定の範囲で駆け引きを展開するという『ジョジョ』的な演出が実践されていて、こういう方向の継承なら大歓迎。

「刑事コロンボ」的な犯人対警察の倒叙ミステリになっているのだけれど、「すでにやってしまった犯行」をめぐって攻防を繰り広げるだけでなく、事態が現在進行形で進展していくのが面白い。

読者の視点は当事者である主人公の立場になっていることもあるし、その行動を中立の立場から眺める「死神」の視点に近づくこともある。そのあたりの配分も良い。

犯罪者を恣意的に処罰することは善なのか悪なのか、というような問題を孕んでいた当初の設定が、いつの間にか犯人対警察の攻防に回収されてしまった感じはあるのだけれど、それにしてもミステリ系漫画として充分楽しめる内容にはなっていると思う。

2004年07月04日

今月のNHK-BS2映画ラインナップ

BSオンライン: 今月のBS2・映画を見ると、今月のBS2は個人的にチェックしたい番組が多い。

  • 『監督ロバート・アルトマンのすべて』
  • ウディ・アレン監督:『ハンナとその姉妹』『インテリア』『カイロの紫のバラ』
  • 『ウディ・アレン 映画と人生』
  • 『さらば冬のかもめ』
  • 『アンダーグラウンド』

など。ウディ・アレンの数作と『さらば冬のかもめ』はそのうち見ようと思っていて未見だったので。エミール・クストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』は地下王国好き、歴史改変好きにはたまらないと思われる大傑作なので、未見の人は見たほうがいいと思います。スティーヴ・エリクソンの『黒い時計の旅』なんかが好きな人も楽しめると思う。

下旬にはチャン・イーモウ監督特集(『英雄』『初恋のきた道』など)とか、『下妻物語』の中島哲也監督の長篇デビュー作『夏時間の大人たち』なんてのも放送される。

[追記]後で調べたら、7月13日放送の『ムッソリーニとお茶を』は、脚本が『告発者』の英国作家ジョン・モーティマーだった。これも要注目。

Movable Type 導入の参考にしたURL

自分用の備忘録も兼ねて、Movable Type 導入に関してこれまで参考にした or 利用したページを記しておきます。

【Movable Type 導入】

【プラグイン:全般】

  • MovableType用TextFormatプラグイン mt-sukeroku-plus.pl Wikiまたははてなダイアリー風の入力支援を使えるようになる(便利!)。はてな風も良いけれど個人的に「引用」の部分が好みじゃない等の理由で、PukiWiki風の書式を使っている。

【プラグイン:オンライン書店関連】

【編集用ツール】

  • AreaEditor ブラウザのテキスト入力欄と好きなエディタを連携できるツール。特にMovable Typeの入力欄は字が小さくて見難かったりもするので必須だろう。惜しむらくはIE専用なので、普段Operaを使っている僕はサイトを編集するためにIE系のブラウザを別に立ち上げないといけない。

ごあいさつ

というわけで移転しました。今後はこちらを更新していきます。

以前置いていたサーバーの使用条件(CGIやDBの使用など)が物足りなくて少し前から移転を検討していたのですが、何とか形になったようなのでひとまず公開してみます。移転前の過去ログは追い追い整理してこちらのURLにも置いておきます。

Movable Type を導入することにしたのは、単に流行のブログツールの機能を試しに使ってみたかったのと、読書日記系のウェブサイトをやっているところで Movable Type に移行した例をあまり見ない気がするので、導入してみたらどうなるんだろうという(人柱的な)興味からです。書く内容はたぶんこれまでと大して変わらないと思います。

コメントはともかく、トラックバックなんて実際に使うのかな……という気もしますが(やってる本人たちは楽しいのだろうけど、読者としてはあまり有効に機能しているのを見たことがない気がする)、せっかく看板の機能なのでひとまず両方ともONの設定にしてみます。

リニューアルのついでに、この日記コンテンツはニコルソン・ベイカーのこの↓傑作小説から名前を拝借して「中二階日誌」と名乗ることにします。

では、引き続き読んでいただけるかたはよろしく。


01467386500 Can't connect to cgi.bk1.jp:80 (Bad hostname 'cgi.bk1.jp') 中二階 / ニコルソン・ベイカー / 岸本佐知子訳 / 白水社 [amazon] [bk1]