2004年07月19日

マーティン・ベッドフォード『復讐×復習』

amazon.co.jp Acts of Revision (1996) / 浜野アキオ訳 / 扶桑社ミステリー文庫 [amazon] [bk1]

ぼくの名はグレゴリー・リン。三十五歳。孤児で独身で四歳半のときから一人っ子。

……と語りはじめるサイコ犯罪者の一人称小説で、すごい傑作とは思わないけれど面白く読めた。主人公がもういい年なのにいつまでも子供時代のことにこだわっているところなど、ジャン・ヴォートランの『グルーム』、パトリック・マグラアの『スパイダー』にいくらか通じる。

作者マーティン・ベッドフォードは英国の作家で、もう一冊、第三作の『ジグザグ・ガール』(創元推理文庫) [amazon] [bk1] が訳されている。これは奇術師が亡くなった恋人の思い出を語る小説で、この『復讐×復習』とはまったく毛色の違う内容なのだけど、語りの構造は共通するところがある。どちらの作品の語り手も、物語上の出来事を直線的に語るのではなく、迂回しながら細切れに、しかも前置きとして自分の物の見方や考え方をたっぷり織り混ぜながら語っていく。したがって物語の全貌はなかなか見えてこないのだけれど、この語りの完成度がとても高くて、本当にこういう人物がいて読者に向かって語りかけているような印象を与える。実際のところ、物語上の出来事よりも語り手の人物像を読者に印象づけることが目的になっているのではないかと思う。奇怪な犯行計画を実行するサイコ犯罪者とか、奇術を職業とする人物とか、あまり現実味のないように思える人物の語りが、説得力をもって積み重ねられるところを読むのはなかなか面白い体験で、他の作品も気になる。

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