2005-12-29

映画感想(2005年11月)

■『ミリオンズ』 Millions (2004)

ダニー・ボイル監督の劇場第一作『シャロウ・グレイブ』は、拾った大金を奪い合うブラックなサスペンスだった(広い意味では『トレインスポッティング』もそうだろう)。『ミリオンズ』はその原点に戻ったファミリー映画版という感じで、子供が主人公だから話をある程度道徳的なところに収めないといけないのだけど、主人公の少年を単なるありがちな「良い子」ではなくて聖人オタクという設定にしているのが面白い。近い時期に公開された『チャーリーとチョコレート工場』の主人公よりずっと魅力的だろう。劇中の季節がクリスマスに近づくにつれて、少年の見る「聖人」はだんだん時代が下ってイエス・キリストに近づいていく。

画面がカラフルで心地良いし、悪くないクリスマス映画だと思うのだけれど、子供がニット帽の泥棒と追いかけっこをする話だとどうしても『ホーム・アローン』に見えてしまうのが難か。[★★★]

■『ブラザーズ・グリム』 The Brothers Grimm (2005)

グリム兄弟は実はいんちき詐欺師だった!という冒頭のつかみは抜群なのだけれど、その後は別に主人公がグリム兄弟でなくてもいいような活劇が続いて失速。グリム兄弟が「物語」の魅力に目覚めるというところまで話をうまくつなげられていない。

グリム弟であるヒース・レジャーの眼鏡の似合いっぷりと、ヒロインのレナ・ヘディあたりはなかなか良いのではないだろうか。[★★★]

■『親切なクムジャさん』 Chinjeolhan geumjassi (2005)

白と赤の映画。冒頭から豆腐やケーキといった白い、つまり「浄化」のモチーフが出てくる一方で、例によって凄惨な流血場面も描かれる。清純派女優として知られるイ・ヨンエが赤いアイシャドウをつけて復讐の鬼に変身するのは、彼女が「白と赤」、純白と鮮血に彩られた映画を象徴する存在だからだろう。そして幕切れの場面では『オールド・ボーイ』と同じく、白い雪がすべての罪悪と流血を浄化しようとする。

『オールド・ボーイ』はゲーム的な閉鎖空間の愛憎劇として見られたのだけれど、今回の『親切なクムジャさん』は舞台となる場所が海外のオーストラリアまで出てきて多岐にわたり、TVというメディアも登場する。つまり『オールド・ボーイ』とは違って劇の時間と空間が拡散している。これが悪い方に出ている気がして、もともと無理のある筋書きが飛び飛びに提示されるせいで、場面ごとのつながりを欠いたコント集のようになってしまった。ナレーションが多いのは話がつながらなくて後から慌てて入れたんじゃないかと勘繰ってしまう。

とはいえ、個々の場面では突然見応えのある奇怪な出来事が起こったりするので侮れないのだけれど。クライマックスの展開がアガサ・クリスティの某有名作を髣髴とさせるのには笑いそうになった。21世紀になってこんな光景を映画館で見ることになるとは誰が予想し得ただろう……。[★★]

■『ダーク・ウォーター』 Dark Water (2004)

オリジナルの『仄暗い水の底から』は未見。女性主人公が呪われた部屋を借りてしまうホラーというと、何をやっても『ローズマリーの赤ちゃん』のバリエーションに見えてしまうとは思いつつ、舞台設定の良さのせいか映画としてはそこそこまとまっている。不動産屋がジョン・C・ライリーという不吉さには震えそうになった。また、一部では「ダコタを超えた!」とも噂される天才美少女、アリエル・ゲイドちゃんは必見。[★★★]

■『イン・ハー・シューズ』 In Her Shoes (2005)

『ブリジット・ジョーンズの日記』の市場を狙った感じの作品とはいえ、監督がカーティス・ハンソンだからそれなりにまとめているだろう……という程度に構えていたら、これは思いのほか良かった。何かの欠落を抱えた登場人物たちがこれまでの自分を脱ぎ捨てて人生の次のステージへ踏み出していく、という筋書きは『ワンダー・ボーイズ』の女性版ともいえる。

何より、場面ごとに何か必ずくすりと笑えるところがあって、それが細波のように映画の幸福感を増幅させていく。『エリン・ブロコビッチ』の脚本家、スザンナ・グラントの功績が大ではないかと思う。

カーティス・ハンソン監督の画面作りは目立たないけれど的確で、特にトニ・コレットの住むフィラデルフィアの落ち着いた街並みと、キャメロン・ディアスの向かうフロリダの降り注ぐ陽光、並行して描かれるふたつの土地の空気感をうまく対比しているのに感心した。ちなみにフィラデルフィアは『シックス・センス』、フロリダは『メリーに首ったけ』の舞台でもあった。つまり主役の女優ふたりは、それぞれの出世作の舞台になった土地で「自分探し」をすることになるのだ。そのことでこの映画はいくぶん説得力を増していると思う。

トニ・コレットの演じる負け犬女(?)がオタクっぽい男と結ばれるという展開があるのは時節柄キャッチーかもしれない。ただ、男のほうが突然「君をずっと見ていたよ」と求愛してくるので、そのあたりはさすがに少女漫画みたいだとも思ってしまうけれど。

この作品と似た感じを受けた映画の題名を挙げていくと、『ミス・ファイヤクラッカー』『マグノリアの花たち』『パッション・フィッシュ』。なぜかどれもアメリカ南部を舞台にした作品だ。[★★★★★]

■『エリザベスタウン』 Elizabethtown (2005)

世間では逆の評価みたいだけれど、キャメロン・クロウ監督作のなかでは割と好きな作品。『あの頃ペニー・レインと』みたいに中途半端にリアルな設定で甘酸っぱい話よりは、この『エリザベスタウン』みたいにひたすら妄想の世界に突き進んで帰って来られないような作品のほうが清々しい。

仕事で大失敗をした男が自殺を試みるという導入部は、フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』を下敷きにしたものだろう。都会の暮らしに疲れた彼がアメリカ南部に帰郷して、田舎の生活と風景に癒されて生きる力を取り戻していく、というのが基本構想なのだろうけど(これは9.11以降の米国で歓迎されそうな趣向ではある)、父親を追悼する話のはずなのにそもそも主人公が父親をどう考えているのかよくわからないし、ロマンスの相手になるキルステン・ダンストが主人公の帰郷と絡む必然性を見出せないしで、焦点の定まらない映画になってしまった。あとオーランド・ブルームは『キングダム・オブ・ヘブン』もそうだったけれど、主人公なのに何を考えているのかよくわからないことが多い気がする。

ただ、オーランド・ブルームとキルステン・ダンストが携帯電話で延々と長電話をする場面、スーザン・サランドンの演説とタップダンスなど、部分的に見ると面白いことをやっているので見た後の印象はそれほど悪くない。でも映画全体の縦糸みたいなものが足りないのは否めない。[★★★]

■『ランド・オブ・プレンティ』 Land of Plenty (2004)

ヴェンダースの新作は意外にも、劇中で殺人事件が起きて登場人物が犯人を突き止めようとするミステリー的な筋立てを持つ映画だった。とはいえ探偵役になるのが、街中で日々テロリストと戦争状態にあるという妄想に駆られたドン・キホーテ的な人物なので、当然事件の背後に彼の想像するような大きな陰謀などはなく、探偵行為そのものは空振りに終わる。

この図式はもちろんアメリカの9.11後のイラク戦争に対する批判を重ね合わせたものなのだろうけど、ここに出てくる人物はいかにも「ヴェトナム帰りの電波野郎ってこんな感じ?」と適当に造形したようで、少しも切実さを感じられない。居もしない類型的な愚者を勝手に作って見せられても退屈でしかない。

低予算で作られたのがわかる映画とはいえ映像の粗さもひどく、劇場で見るのがつらかった。良いのはミシェル・ウィリアムズが綺麗に撮られていることくらい。[★★]

2005-12-29 22:17 [topic] | Permanent link | Comments (3)

Comments / TrackBack

お久しぶりです。
12月に入り正月映画も色々公開されてますが、お気に入りの映画はありましたか?

Posted by S at 2005/12/30 (Fri) 23:04:10

こんにちは。正月映画では『キング・コング』が圧倒的にいいんじゃないでしょうか。というか、近所の映画館の券が余っていて今月中に使い切りたいのですが、正直他にあまり観たい映画がない……。

Posted by OK at 2005/12/31 (Sat) 00:25:15

あとは「SAYURI」、「ザスーラ」、「Mr.&Mrs.スミス」なんかがありますね。

「ザスーラ」は意外と拾い物でしたわ。

Posted by S at 2005/12/31 (Sat) 08:40:15

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