2005-12-29

映画感想(2005年10月)

しばらく放っていたらもう年の瀬になってしまった。大掃除のつもりで、ここ数か月で観た新作映画の感想くらいは今年中に書き付けておきたい。

■『シン・シティ』 Sin City (2005)

賛否両論の作品だけど僕はまったく駄目だった。『スカイ・キャプテン〜』ばりの背景はめこみ合成の画面と、人物の心理を逐一説明するモノローグに、「これは果たして映画なんだろうか……」とひたすら違和感が募るばかり。

3つあるエピソードがどれも「女に手を上げる悪い奴がいた→ぶち殺した→終わり」という筋書きで、古臭いダンディズムと残虐スプラッタ描写が画面に溢れる。どちらも趣味じゃないので、一種のコスプレ映画としてしか愉しめなかった。汚れた街「シン・シティ」には表層しかなくて、その背後にある社会の成り立ちなどはいっさいわからない。これは日光江戸村のようなテーマパークの世界、いわば「ハードボイルド・ワンダーランド」だ。ここまで完璧に願望充足の世界を見せられると、逆にこれが誰かの妄想にすぎないことが気になってしまう。全篇CGで作られた映画は作者の意図を忠実に再現するだろうけど、意図した以外のものは写り込まない。それが悪い方に出た典型的な作品ではないかと思う。[★★]

■『そして、ひと粒のひかり』 Maria Full of Grace (2003)

これはふたつの「輸入」を描いた映画だ。運ばれるひとつはもちろん主人公が飲み込んで運ぶ麻薬で、もうひとつは体内に宿した新しい命。どちらも主人公の体を「容器」として、コロンビアから米国へ国境を越えて輸送されることになる。このふたつの要素が映画の中で交錯していくのが見ていてわくわくした。

多くの実話をもとに少女をめぐる「輸入」の実態を描いているという点で、こちらも今年見た映画『リリア 4-ever』と対になる作品だと思う(原題の"Maria Full of Grace"と"Lilja 4-ever"も似ている)。『リリア 4-ever』の救いのなさと較べるとずいぶん話が甘いように感じるのと、コロンビアの生活がいくら何でも悪く描かれすぎではないかというのが多少気になったけれど、主演のカタリナ・サンディーノ・モレノが文句なしに素晴らしい。[★★★★]

■『マカロニ・ウェスタン 800発の銃弾』 800 balas (2002)

『ドン・キホーテ』の国の人がマカロニ・ウェスタンのパロディを撮る、ということで期待したのだけれど、題材が絶妙すぎたせいか逆になかなか予想を裏切る展開にならないのが惜しい。終盤はなぜか擬似ドキュメンタリーみたいになっていた。[★★★]

■『真夜中のピアニスト』 De battre mon coeur s'est arrete (2005)

フランスでこういう青春ノワールっぽい話といえば、トニーノ・ベナキスタの『夜を喰らう』があったな……と思いながら観ていたら、そのベナキスタ(ブナキスタ)本人が脚本を書いている映画だったので驚いた(監督のジャック・オーディアールと共同名義)。

最近フランスのノワール系映画に結構当たりが多くて、『ブルー・レクイエム』に続いてこの作品も愉しめた(が、全然話題にならない……)。深刻な場面でも必ず醒めたユーモアが漂っているのが小気味良い。ルパン三世ことロマン・デュリスの「2.5枚目」な見た目もそれに合っていると思う。彼がやたら胸毛を見せながらピアノの練習に打ち込んでるのって、真剣な面差しでもどこか笑ってしまうような感じがある。自然光を使った室内場面の撮影も好みだった。

後でジャック・オーディアール監督の前作『リード・マイ・リップス』も見て、こちらも面白かった。昼の世界と夜の世界、本来出会わないはずのものが出会ってしまう、というずれを基調にするのは両作品とも同じ。

『スパニッシュ・アパートメント』でEU賛歌を体現していたロマン・デュリスが、今度は対中国親善大使の役回りを振られるというフランス政治映画としても見られるかもしれない(というのは無理筋か)。[★★★★]

■『ステルス』 Stealth (2005)

『ワイルド・スピード』『トリプルX』と、アメリカのDQN映画界の最前線をひた走るロブ・コーエン監督の新作。噂通り、どう見ても実写版『チーム・アメリカ』だった……という以外には感想がない。というかロブ・コーエンは『トップガン』を本気でリスペクトしているそうなので必然か。[★★]

■『亀も空を飛ぶ』(2004)

イラクのクルド地方、少年たちは競って地雷を拾い、さらに悲劇に見舞われた少女もいる。本当に救いのない状況を、悲惨さだけを強調しないで効果的に見せているので思わず惹きこまれる。ただし、いかにも岩波ホールでかかりそうな映画だ、と言ってしまうとそれまでのような気もしないではない。ちなみにこの映画の構成も『リリア 4-ever』を思い出させる。[★★★]

■『世界』 The World (2004/)

「世界公園」の内幕と閉塞感の映画。「北京から出ないで世界を見よう」という公園のキャッチフレーズは、「映画館から出ないで世界を見よう」としている我々観客と映画の関係を問い直しているかのようだった。それは「観光」としての映画を批評するだろう面白い着眼点なのだけれど、一方で生活に疲れた登場人物たちの描写を延々と見せられると、何でわざわざこんな冴えない人たちの暮らしを見ないといけないんだろう、とふと我に返る瞬間があるのは否めない。[★★★]

■『ティム・バートンのコープスブライド』 Tim Burton's Corpse Bride (2005)

昼に『チャーリーとチョコレート工場』、夜に『コープスブライド』を並行して作っていたというだけあって夜の雰囲気がよく出ている。死者の花嫁(コープス・ブライド)が地上に出て言う台詞、「月の光がこんなに美しかったなんて!」は、何気ない台詞だけれどこれが"陽の光"じゃないところがいかにもティム・バートンの世界だなあと思う。

バートン得意の「グロ可愛い」路線の集大成のような作品で、バートン自身の分身のような主人公は『ヴィンセント』、骨の犬は『フランケンウィニー』、死者の国が地上よりもカラフルで賑やかなのは『ビートルジュース』、といった過去の作品をそれぞれ思い出させる。ただし、主人公がそれでも灰色の現実世界の生活に留まる道を選ぶのがこれまでと違うところで、バートンが過去の自分の世界に別れを告げている作品のようにも見える。

ヘレナ・ボナム・カーターがコープス・ブライドに声を当てているのでわかりにくくなっているけれど、バートン(=主人公)からすると、小柄な英国娘のヴィクトリアが現在の妻のヘレナ・ボナム・カーターにあたるだろう。そうするとコープス・ブライドとは前妻のリサ・マリーのことではないだろうか……。なんて邪念が浮かんでしまって素直に愉しめなかった。その点は抜きにしても、絵本から出てきたようなキャラクターがあんなに滑らかに動くなんて、、というストップモーションに関する感動は以前の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』ほどではなかった気がする。[★★★]

■『ドミノ』 Domino (2005)

画面の色調やエフェクトがせわしなく切り替わるMTV風の映像スタイルは『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を思い出させる(本作のトニー・スコット監督の『トゥルー・ロマンス』とはタランティーノ脚本つながり)。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』は映像の切り替えに本当に脈絡がなくて苛々したものだけれど、この映画ではそれほど気にならなかった。ひとつはこの映画の前提として、実在の賞金稼ぎであるドミノをそのまま描くのではなく、どれだけ彼女の人生に装飾をつけて話を膨らませられるかを目指しているから、というのがあるかもしれない。(とはいえ、なぜそこまでして彼女を題材に選ぶのかは正直なところ最後までわからなかったのだけれど)

『ドニー・ダーコ』のリチャード・ケリーによる脚本は、TVがらみの味付けはアメリカのジャンクな文化の裾野を覗かせて面白いのだけれど、強盗をたくらむ連中が全員あっさり睡眠薬を盛られてしまうとかの子供っぽい展開は何とかならなかったのだろうか。[★★★]

2005-12-29 00:05 [topic] | Permanent link | Comments (0)

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