2005-07-01

『宇宙戦争』

War of the Worlds / 2005年 / 米国 / 監督: スティーヴン・スピルバーグ

スピルバーグ監督作が日米同時公開、SF映画で「天才子役」が出演する……というとどうしても『A.I.』の悪夢を思い浮かべてしまうのだけれど、今回は題材が得意分野のモンスター・パニック映画で、小市民が日常生活を破壊されてひたすら逃げ回る『激突!』系の一本道スリラーなのできちんと面白い。『シンドラーのリスト』(ホロコースト)、『プライベート・ライアン』(地上戦)と続いた戦争・大量殺戮ものの光景を米国本土に持ち込んだ作品ともいえるし(いわゆる「見ろ、人がゴミのようだ」路線というか)、『A.I.』や『マイノリティ・リポート』で気になった意味不明の過剰な陰惨さも今回は物語内容と合っている。最近のスピルバーグ作品の例に漏れず、特に後半は突貫工事のやっつけ感が見られるのは否めないのだけれど……。

異星人侵略なんて古臭い題材の映画をいまさら撮るとどうしても『マーズ・アタック!』や『サイン』のようなネタ映画になりがちなので、たまにはこういう正面突破に近い作品を見るのも悪くない。

トム・クルーズの駄目中年ぶり(子供にもしじゅう侮られる)、やたら挙動不審で空回りする言動も結構はまっている。後半から出てくるティム・ロビンスはそれに輪をかけて怪しいので、まともな大人が出てこない。

あと、日本各地で様々な憶測を呼んでいる「大阪では何機か倒したらしい」という作中の発言だけれど、単なる風説だと解釈するのはつまらないので、ここは「"たこ消しマシーン"で撃退した」説を提唱してみたい。まじめに書くと、阪神大震災から「高速道路倒壊」のイメージを借りたので、オマージュとして地名を出したんじゃないだろうか(神戸だとそのまますぎるので、USJにちなんで大阪にしたとか)。[★★★★]

2005-07-01 23:56 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-06-21

『チャレンジ・キッズ 未来に架ける子どもたち』

Spellbound / 2002年 / アメリカ / 監督: ジェフリー・ブリッツ

全米スペル暗記大会(Spelling Bee)」に参加する子供たちを描いたドキュメンタリー映画。柳下毅一郎氏の日記(3月8日)で紹介されていて知ったのだけど、なるほどこれは面白い。

アメリカでスペリング大会なんてのが行われていること自体知らなかったのだけど、国内では有名な大会で、毎年の全国大会はESPNで放映されているらしい。大会の様子を見ていると、そんなの知るわけないような難解な単語や外国語由来の言葉(日本語の"zaibatsu"なんてのもあった)が次々と出題されて、もはや英語を覚えるという趣旨からは外れて奇形的に発展している印象を受ける。その一方で、学校生活では仲間外れにされやすいいわゆる"geek"な子供たちが注目を浴びてヒーローになれる企画でもある。登場する子供たちにメキシコ系やインド系など、移民出身の出自を持つ人物が多いのが印象的だった。一見奇妙な大会だけれど、移民でも誰でも、言葉という共通のルールを覚えればアメリカの一員として認められ、努力すれば成功できるかもしれない、というアメリカの側面を示した大会でもあるのがだんだん見えてくる。

それはともかく、登場する子供たちがそれぞれ漫画みたいに個性的で面白い(辞書がぼろぼろになるまで毎日勉強している少女もいる)。そのなかに何人か眼鏡娘(意外に可愛い)がいて、彼女たちがちゃんと大会で勝ち残っていくのは「さすがわかってるな」と思った。

『論座』の最新号(2005年7月号)に監督のジェフリー・ブリッツによる記事が掲載されていて、スペリング大会を取り上げることで「アメリカ」の縮図を描けるのではないかと考えた、というような意図を語っている(監督自身もアルゼンチンから来た移民の家系なのだそう)。その記事で、スペリング大会の「一発アウトで参加者の数が減っていく」という趣向には『そして誰もいなくなった』のようなスリルがある、と書いているのが面白い。(したがって、この映画には登場人物がだんだん消えていく『金田一少年』みたいな演出がある)

2005-06-21 23:27 [movie] | Permanent link | Comments (2)

2005-06-20

『バットマン ビギンズ』

Batman Begins / 2005年 / 米国 / 監督: クリストファー・ノーラン

『アメリカン・サイコ』でチェンソー殺戮、『リベリオン』で「ガン=カタ」、そして『マシニスト』で激痩せ術を身につけたクリスチャン・ベール、今回の彼が習得するのは何と「忍術」なのだった……。渡辺謙は単にこの「東洋の神秘」の顔見せのために呼ばれたみたいだ。監督のクリストファー・ノーランは隠れタランティーノ・フォロワーらしいので、『キル・ビル Vol.1』を見て「俺もタラさんに続いて『影の軍団』リスペクト映画を作ってみせる」と意気込んだのかもしれないと勝手に想像する。忍術修行の舞台は日本ではなくなぜか「ヒマラヤの奥地」(チベットあたり?)なのだけど。

という前置きはともかく、今更『バットマン』で何をやるのかと半信半疑で見に行ったら、蓋を開けてみるとリアリズム方向に舵を切ったアメコミ映画として思いのほか楽しめた。話を盛り込みすぎで上映時間が長めになってはいるけれど、クリストファー・ノーランは結構やるじゃないかと感心する。

ゴシックとファンタジーの面を強調したティム・バートン版の「どこでもない」架空の世界とは違って、この映画のゴッサム・シティは現実社会に近い設定のもとで動いていて、主人公のブルース・ウェインも超人ではなく普通人として出発する。漫画のヒーロー物語をできるだけ現実社会に即した解釈で読み替えていく感じがあって面白い。クリストファー・ノーランはもともとミステリ映画(『フォロウィング』『メメント』)で出てきた人なので、ロジカルな手続きで物語の隙間を埋めていく作風なのだろうと思う(その過程で「東洋の神秘=忍術」も援用されるわけだけれど)。主人公のバットマンは法の外で勝手に正義を実行する、観客が肩入れしにくい人物なので、その周りにヒロインの検察官(法の範囲内での「正義の実行」を代表する)や穏健派の「執事」を配して、主人公の行動を批判しないまでも相対化するようになっているのも抜かりない。

主演のクリスチャン・ベールと執事役のマイケル・ケインはどちらも英国出身の俳優で、監督のクリストファー・ノーランもロンドン生まれの英国人なのだそうだ。主人公のブルース・ウェインは街の有力者の息子、つまり作中でも言われるように「王子様」の役割で(王子なので乞食と服を交換したりもする)、マイケル・ケインはいかにも英国風の執事を演じている。ちょうどP. G. ウッドハウスの『ジーヴズの事件簿』を読んでいたせいか、これは『バットマン』の枠組みにウッドハウス的な「困ったお坊ちゃんとしっかり者の執事」という英国コメディの類型を投入した作品のようにも思えた。ちなみに、マイケル・ケインの演じる老執事はさすが白々しさとチャーミングさが絶妙で、これからは「執事」といえばこの映画のマイケル・ケインを思い出してしまいそうだ。

ついでに書くと、この主人公ブルース・ウェインは職場には親のコネで裏口入社、普段はろくに仕事もしていないようなのに体面だけ適当に繕い、夜な夜な仮面を付けて街の「浄化」に励む……と、これはよく考えるとクリスチャン・ベール自身が『アメリカン・サイコ』で演じた腐れヤッピーとそれほど変わらない。要するに、英国人がアメコミのヒーローに突っ込みを入れながら映像化するとこうなるのだろう。個人的には『バットマン』自体に特に思い入れがあるわけではないせいか、このくらいの突き放し方も面白いように感じた。

画面を見ればわかるけれど、ゴッサム・シティはニューヨーク・シティの陰画でもある。東方からテロリストがやってきてゴッサム・シティを危機に陥れるという展開は、ヒーローものにありがちな筋書きとはいえやはりある種の政治的な読みを思い浮かべないでもない。とりわけ、法の外の「復讐」は正当化されるだろうかということがひとつの主題になっているので……。[★★★★]

2005-06-20 23:57 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-06-17

『やさしくキスをして』

Ae Fond Kiss... / 2004年 / 監督: ケン・ローチ

しばらく前に見ていたのだけれど、感想を書かずにぼんやりしていたらもう上映が終わってしまいそうだ、ということで慌てて蔵出し。

ケン・ローチ監督の新作はパキスタン系の青年と音楽教師(アイルランド系の白人)を主人公にした異文化恋愛もので、男は家族がイスラム系、女はカトリック系の学校に勤めているという宗教的な背景の違いがあるために深刻な困難が生じる。愛し合う若い男女がただ一緒になろうとするだけで、なぜこれほどの犠牲が生じなければならないのだろうか……という現実に起こりそうな「不条理」に目を付けているところは、『レディバード・レディバード』あたりの作品と共通する。やはりコミュニティに宗教が絡んでいると妥協の余地がなくて面倒なものだなあと思う。

ケン・ローチの映画を見ていると、面白いというより前に「誠実」という言葉を使いたくなる。ケン・ローチ作品では、夢のような成功や絵空事の解決は決して描かれない。この映画でヒロインは、青年の家族に「いつまで彼を愛するのか」と何度も問い詰められる。そこで彼女は「永遠に」といった根拠のない保証を決して口にしないで、ただ「わからない」とだけ答える。映画の中でふたりの直面していた困難はほとんど何も解決しないまま終わり、ひとときの幸福がいつまで続くのかもわからない。その現実の不透明さを写し取ることにケン・ローチ流の「誠実」があるのだろう。

というわけでケン・ローチらしい秀作なのだけれど、主人公ふたりの周りで起こる騒動が映像で見せられるのではなく伝聞で示されることが多いせいかいまひとつ実感に乏しく、「個人の恋愛を宗教的コミュニティが圧迫する」という図式に沿って出来事が並べられているようにも見える。まあ、主人公の男女に寄り添った視点の映画なのである程度は仕方ないのか。[★★★★]

2005-06-17 00:24 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-06-12

『愛より速く』

Gegen die Wand / 2004年 / ドイツ / 監督: ファティ・アキン

ドイツ映画祭2005にて鑑賞。映画祭最後の上映作品だった。こちらは今年日本公開予定の作品らしい。

監督の名前からするとトルコ系の人のようで、ドイツ在住のトルコ系移民の男女が主人公になる。なので移民の生活の苦労や文化摩擦を描いた作品なのかと思ったのだけど、筋書きは自殺未遂者の駄目男と自傷癖のある女が出会い、ある事情から「偽装結婚」をしたもののやっぱり愛情が芽生えてきて……というもの。とにかく主人公ふたりが精神不安定で堪え性のない人なので、いきなりグラスを何度も割りまくり、えらく流血場面の多い映画になっているのが印象的。主人公たちに好意を抱く暇もないまま次々と常識外の言動が繰り広げられるので、正直なところこんな迷惑な人たちに何が起ころうと知ったことかと感じてしまった。こういう困った人たちをリアルに描きながらも、それでいて決して見放したい気分にはさせないケン・ローチ監督の偉大さを再認識する。

というわけで、「ドイツ映画祭」はたまたま見た2本のうちどちらも個人的には外れだった。もう1、2本見ていれば、当たりの作品もあったかもしれないけれど……。[★★]

2005-06-12 23:55 [movie] | Permanent link | Comments (0)

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