2005-01-12

『アジアの岸辺』 トマス・M・ディッシュ

bk1: アジアの岸辺

The Asian Shore / 若島正編 / 国書刊行会 / ISBN:4-336-04569-0 [amazon]

SF作家としてのディッシュがどういう存在なのかよく知らないのだけれど、この作品集は黒に統一された装丁からして、ブラック・ユーモア選集・異色作家短篇集の流れに通じる内容になっていて、切れ味良く愉しめる。例えば収録作の「争いのホネ」は、イヴリン・ウォーの『囁きの霊園』あたりの黒い笑いに近いと思う。

男女関係から創作活動まで、あらゆる切り口から米国社会を諷刺する作品集。SFというのは現在とは異なる別の文明や社会を描くものだろうから、その外部の視点から現代社会を描けば諷刺することになるのも当然なのかな。イスタンブールを訪れたアメリカ人作家が外の文明との狭間で自分を見失ってしまう表題作「アジアの岸辺」も、その流れで読める。

徹底して現代社会を諷刺した作品集という意味で、内容的に近いと思うのがパトリシア・ハイスミスの『世界の終わりの物語』なのだけど、ハイスミスの作品のように「なぜそこまで」という俗世間への猛烈な嫌悪感がにじみ出ているわけではなくて、理知的に制御されている作品という感じを受ける。どんな題材をとりあげても切れ味が鈍らない万能ナイフのような小気味良い作風で、その器用さに感心するけれども、作者自身が何を描きたいのかというこだわりや執着みたいなものが全然見えてこないのが奇妙な感じもした。

よくできた作品が多かったけれど、個人的には「話にならない男」が面白かった。ひとつ前の作品「犯ルの惑星」(これは原題が"Planet of Rapes"で、絶対題名から思いついた話に違いない)と似た内容で、人間関係のすべてが社会システムに還元されてしまう世界の話。主人公の男は、人と会話をするライセンスを手に入れるために上級者に対して何か気の利いた会話をしなければならない。これは滑稽な話のようなんだけれど、一面では実際の人間関係でこういう「ポイントを稼ぐ」ための打算で背伸びをして話をする羽目になることってあるんじゃないか、とも思って身につまされる。いまだったら主人公を「大手サイト入りを目指す初級テキストサイトの管理人」(別に書評サイトでもブログでもいいですが)とかに読み替えてみてもいいかもしれない。

2005-01-12 22:37 [book] | Permanent link | Comments (1)

Comments / TrackBack

ディッシュは「ビジネスマン」という作品が気に入っていますが (他に「M・D」「334」というのを読みました。これらはどれも長大…)
短編集も出ていたんですね。

廃墟と化した高層ビルの中に住み着いている人々が、階によってまさに階層を作っているというような内容だった(気がする)「334」にしてもある意味で風刺なので、この作家はそもそもが風刺作家なのかもしれないですね。
そこと幻視された世界との絡みが、この作家の読みどころなのかとも思いますが、短編ではどうなんだろう…

Posted by Hermit at 2005/02/05 (Sat) 18:55:10

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