2005-05-05

『エレニの旅』

Trilogy: The Weeping Meadow / 2004年 / ギリシャ・フランス・イタリア / 監督: テオ・アンゲロプロス

そろそろアンゲロプロス作品に入門でもしようかと思っていたところ、ちょうど新作が劇場にかかっていたので見に行ってみた。しかし、これは失敗作じゃないだろうか……。

両世界大戦前後のギリシャ現代史を背景に、歴史に翻弄されるヒロインの受難を描くという映画なのだけど、個々の場面は端正に造型されていていて見ごたえがあるにしても、物語の流れがないので悲劇が場当たり的に起きているようにしか見えない。さして生活を描かれていない村が突然水没してしまったり、ろくに出てこない双子の息子がいつのまにか戦死していたりしても、それは形だけの「悲劇」にしかならなくて、観客が作中人物の悲痛や喪失感を共有することはできないだろう(しかもどうして「双子」なのかと思ったら、ただ単に内戦で敵味方に分かれるという類型に当てはめたかっただけみたいで……)。そもそも同じ時代に似たような苦難を味わった人はたくさんいるだろうに、どうしてこの主人公たちが特別に取り上げられるのかわからない。

ただし、「地下音楽会に父親が侵入→里に戻って犠牲の羊を見る」までの一連の場面は見事な撮り方だった。このあたりの場面はカメラがゆったりと動いて、あくまで切り返しはしないので登場人物と観客の視野にずれが生じるのが面白くて、これがよく言われる長回しとワンシーン・ワンカットか……と感心した。たしかにすごいものを見たような気になる。画面の構図も絵画的で見惚れる。

画面を汽車が何度も横切る。平凡な解釈だけど、汽車は「抗えない運命」を象徴しているということだろうか。

ということで、見るべき点もあるとは思うのだけれど、後半は一本調子の「悲劇」が続いてあまりに苦痛だったということで。[★★★]

2005-05-05 20:11 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-04

『北国の帝王』

Emperor of the North / 1973年 / 米国 / 監督: ロバート・アルドリッチ

時は大恐慌時代、無賃乗車の常習犯リー・マーヴィンと鬼機関士アーネスト・ボーグナインが汽車の上で死闘を繰り広げる!……と、もはや史実に即しているのかも定かでない「男の対決」が過剰に自己目的化した映画。というか、あの汽車は誰が動かしているんだろう。

とても変な題材、かつ登場人物が皆狂っている映画で面白かったけれど、リー・マーヴィンに弟子入りしようとする若者の役割がいまひとつ生かされていないとか、大雑把で気になる点もある。どちらかというとビデオを探すよりテレビ東京の昼間に偶然やっているのを見て愉しむ映画のような気もする。[★★★★]

2005-05-04 21:56 [movie] | Permanent link | Comments (0)

『ウエスタン』

amazon: ウエスタン

Once Upon a Time in the West / 1968年 / イタリア・米国 / 監督: セルジオ・レオーネ

英語題にも示されているけれど、ここまで行くともう活劇というより叙事詩ですね。イタリアで西部劇を夢想しながら作るというのはもとから虚構をはらんだ枠組みなわけで、そこに失われた過去の時代をありありと再現するという趣旨が相乗効果になって、リアリティを超えた奇妙な感動をもたらしてくれる。エンニオ・モリコーネの音楽は、かつてありえたかもしれない、でも映画の中にしかない西部開拓時代の風景を追憶する気分に満ちている。

今回はチャールズ・ブロンソンが「名前のないヒーロー」の座を与えられているけれど(IMDbによると役名が"Harmonica"だ……)、男たちの争いの中心にクラウディア・カルディナーレの演じるヒロインが登場してくる。この体格の良いヒロインの存在は、土地に根を下ろして将来を築いていく生き方を象徴していて(背後にある鉄道敷設の計画も同じ)、流れ者たちが争う血なまぐさい時代はもう終わりを迎えるだろうことが示される。

例によってレオーネ監督の演出は対決場面でゆったりと見栄を切るので長尺になっているけれど(あと個人的には、「滅びゆく男の美学」みたいなのにさほど興味が湧かないのも否めない)、絵になる場面がふんだんにあって退屈はしない。西部劇の枠組みを超えた名作といってもいいのではないかと思う。「『ウエスタン』の素晴らしき世界」の記事で指摘されている「西部劇版ビスコンティ」というのは、言われてみるとなるほどと思った。

シナリオの原案はセルジオ・レオーネ、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチの合作によるものらしい。いま見るとえらく豪華な顔ぶれなので驚く。[★★★★]

2005-05-04 21:10 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-03

『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』

Thirteen / 2003年 / 米国・英国 / 監督: キャサリン・ハードウィック

『ウィズ・ユー』『シモーヌ』で可愛かったエヴァン・レイチェル・ウッドが、濃いメイクをして舌やへそにピアスをつける反抗期の少女を演じる。「あの娘がこんなことに……」という映画。主人公を不良少女の道に誘い込む友人の役で出演しているニッキー・リード(1988年生まれ)の実体験をもとにした映画化なのだそうで、脚本はニッキー・リードと監督のキャサリン・ハードウィックの連名になっている。

思春期の少女の不安定さをリアルに再現した映画としては「まあ、こういうこともあるんだろうな……」という興味で見られるのだけど、逆に言えばどこにでもありそうな話で、この登場人物たちのどこに映画としてわざわざ描くような特別なところがあるのか、見ていてもわからない。十代の不安なんてのは多くの人が通過する時期で、当の本人にはそれぞれ深刻な事情があるのだろうけど、何か凡庸さを突き破るような要素がなければ「私はこうなって大変でした」という個人の体験記に終わってしまい、普遍的な共感を呼ぶような物語にはならないだろう。結局、この主人公の少女に何か特別な点があるとすれば、身近に映画関係者がいたので自分の実体験を映画として取り上げてもらえたということと、本人が女優として映画に出られるくらい見た目が良かったということだけなんじゃないだろうか。(ニッキー・リードの実の父親は『マイノリティ・リポート』などの映画の美術監督を務めているセス・リードで、そこから映画化の話が始まったようだ)

撮影監督は『アイ・アム・サム』『ホワイト・オランダー』などのエリオット・デイヴィスで、この2作品と似たような、全体に青みがかった手持ちカメラ風の粗い映像になっている(今回は母親役がミシェル・ファイファーでなくホリー・ハンターだけど)。これはいくらなんでも作為的な撮り方に感じるのと、被写体の俳優があまり綺麗に見えなくなるので、個人的には好みではない。ただ、思春期の不安な心理や家庭内の荒れた雰囲気を出すという意味で、この作品内での必然性はそれなりにあるとは思う。[★★★]

2005-05-03 08:21 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-02

『ウィスキー』

Whisky / 2004年 / ウルグアイ・アルゼンチン・ドイツ・スペイン / 監督: フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール

珍しやウルグアイの映画ということで、去年の東京国際映画祭でグランプリを獲ったときから気になっていた作品。映画自体の出来もなかなか良かった。

独身の男女が体面を繕うために夫婦を演じることになる……という、人情コメディの定番のような筋書きなのだけど、とにかくうらぶれた場所と冴えない顔の人物しか出てこないのがいかにもウルグアイの辺鄙さを表しているようで面白い。登場人物か寡黙なのもあって、「南米版カウリスマキ」という評があったらしいのもうなずける。画面に映る室内の隅々まで生活感があって、ほとんど説明がなくても見ているだけで登場人物がこれまで積み上げてきた暮らしや性格が伝わるようになっている。丁寧に作り込まれた作品だと思う。

あくまで小品なので特に騒ぐような映画ではないけれど、ふらりと入った映画館でこんな作品がかかっていたら拾い物だろうと思える秀作。

幕切れは手堅い人情コメディとして締めるのかと思っていたので肩透かしのようにも感じたのだけれど、後から振り返ってみるとあれもありだったかなという気もしてきた。[★★★★]

2005-05-02 06:44 [movie] | Permanent link | Comments (1)

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