2005-09-24

今月観た映画

■『ヴェラ・ドレイク』(監督: マイク・リー)

1950年代の英国ロンドンが舞台で、当時の階級社会における堕胎事情を描いているのが面白い。裕福な家の娘は医者に金のかかる手術を合法的に依頼できるけれども、貧乏な労働者階級の女はその対象外に置かれてしまう。そこで見た目は普通の地味なおばさん、実は闇の仕事人たるヴェラ・ドレイクが「貧者の救済者」として求められることになる。つまり社会の矛盾がヴェラ・ドレイクにすべての問題を押し付けている。

前半は時代背景と人物関係が要領良く紹介されて興味深かったのだけど、主人公の「仕事」が警察に露顕してからはひたすら俳優の重苦しい演技を見せるだけで話が進まなくなり、ちょっと退屈する。同じく妊娠中絶を扱った『サイダーハウス・ルール』もそうだけれど、キリスト教の文化圏とは堕胎に関するタブー意識に温度差があるのだろうかと感じる。

イメルダ・スタウントン演じる主人公は「today」を「トゥダイ」と発音するとか、ロンドンの下町のいわゆるコックニー訛りがすごくきつい。これは主人公がろくに教育を受けていないこと、にもかかわらず(あるいはだからこそ?)社会の決まりに縛られずに何が正しいかを見極めることができたということを示しているのだろうと思う。[★★★]

■『サマータイムマシンブルース』(監督: 本広克行)

一応2005年という設定なんだけれど、何年経っても鄙びた町並みとぼろい部室、まるで時間が止まっているかのように1980年代半ば以降の事物がいっさい登場しないというノスタルジー映画。下敷きになっている『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の公開年が1985年なのでこのあたりの時代が想定されていると思う。タイムトラベル映画でここまで「未来は今日より進歩する」という観念を信じていないのも極端だな、と思ったら、本広監督は学園祭前夜が繰り返されることでお馴染みの『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)を意識していたのだそうで納得した。1990年代以降、我々の社会から「未来は今日より進歩する」という期待がすでに失われてしまったという気分を示した映画だ……というと大袈裟か。個人的にはどこかで「叙述トリック」的な仕掛けを見たかった気もするけれど、筋立てはきちんとまとまっていて愉しい。あと、上野樹里がたいへん可愛かった。別世界の美少女というわけではなくて、SF研究会の部室にいても違和感のない感じが良い。[★★★]

■『チャーリーとチョコレート工場』(監督: ティム・バートン)

白塗りの怪人ジョニー・デップがネバーランド、じゃなくてチョコレート工場にお子様達を招待する。僕程度の知識でも「クイーン風」とか「ビートルズ風」などとわかるパロディ楽曲が次々と繰り出されて、さながら「ダニー・エルフマン歌謡ショー」の様相を呈するのが愉しい。『チーム★アメリカ/ワールドポリス』とともに、今年の馬鹿ミュージカル映画の収穫として讃えられて良いだろう。

ただ、元々の話が「家族を大事にする良い子が報われる」という説教臭いものなのと、さらにウィリー・ウォンカが不和だった父親を訪ねて和解を果たすという「突然『ビッグ・フィッシュ』」な展開になるのがどうも白々しくて乗りにくい。『ビッグ・フィッシュ』ならまだ許容範囲だったのだけれど、この作品ではチョコレート工場(=映画)よりも家庭の幸せのほうが大事、という結論になってしまうのでさすがに行き過ぎではないだろうか……。バートンとしては「いや、俺も子供できたしいつまでも馬鹿やってらんないすよ」という感じかもしれないけれど。バートンにはやはり「風変わりなファミリー映画」以上のものを期待してしまうから、そこはちょっと寂しい。

原作者ロアルド・ダールが英国出身の作家のせいか、労働者階級と資本家の関係をお伽噺に乗せて描くという英国っぽい側面が透けて見える。[★★★★]

■『銀河ヒッチハイク・ガイド』(監督: ガース・ジェニングス)

『指輪物語』の成功でこういう企画がありになったのか、ナードに愛されるSFコメディ小説の映画化なのだそう。原作は読んでいないのだけど、『銀河ヒッチハイク・ガイド』という架空の書物を再現する趣向を始め、非常に馬鹿馬鹿しいものを手間かけて映像化している感じは伝わってきた。

世界の危機なのに主人公たちがとりあえずパブに行ったり、冒頭であっさりと地球が消滅してしまうところがいかにも英国な感じで、その後も英国コメディらしい、笑えるんだか笑えないんだか微妙なギャグが延々と続く。それにしても英国の人は官僚制を茶化すのが好きすぎると思う。宇宙に行っても官僚制ギャグをやるのか。

主人公がボンクラで従者のロボットが人間を馬鹿にしているところはP・G・ウッドハウスのジーヴズものに似ていなくもないかと思っていたら、原作者のダグラス・アダムズはウッドハウスを最も影響を受けた作家として挙げているのだそうだ。[★★★★]

2005-09-24 23:16 [topic] | Permanent link | Comments (0)

2005-09-01

8月に観た映画

相変わらず半ば放置状態になってますが、先月観た新作映画の感想を細々と書いてみます。

■『Dearフランキー』(監督: ショーナ・オーバック)

英国スコットランドの港町に暮らす貧乏な母子家庭を描くという「ケン・ローチ派」の人情ものなのだけど、地味な画面のわりに、母親がわざわざ手紙で架空の父親を作り上げているとか、その微妙に野暮ったい母親の前に突然「幻の騎士」ジェラルド・バトラー様が現れるとか、生活感のない絵空事めいた筋書き(ハーレクイン・ロマンス的というか)になるのが合っていなくていまひとつ。こういう地味な映画は、本当にこんな生活をしている人がいるんだろうな、と感じさせる説得力がないとしょうがないと思うのだけれど。どうせなら母親の話よりも息子と同級生のバイオリン少女との「リトル・ロマンス」でも見せてくれたほうが良かった。最後にもうひと押しあっても良さそうなところを無視してあっさり幕切れになるのは英国映画らしい感じ。[★★★]

■『ランド・オブ・ザ・デッド』(監督: ジョージ・A・ロメロ)

ゾンビ映画の本家ロメロ監督の新作は、黒人リーダーに率いられて覚醒したゾンビたちが大行進を繰り広げて悪い資本家の体制を打倒するという左翼映画なのだった。これは特に裏目読みではなく、町山智浩アメリカ日記の記事によるとロメロ監督本人が

「私のゾンビ映画は『革命』についての映画だ」

と語っているのだそうだ。すなわち、万国のゾンビよ団結せよ! 革命は滅びぬ、ゾンビとともに何度でも甦るさ!という感じだろうか。(いや、ゾンビだからすでに死んでいるのか……?)

デニス・ホッパー演じる街のボスがありきたりな悪役にすぎなかったりとか、登場人物が入り乱れていて全員生かしきれていないように思えるとか、脚本には改善の余地がありそうなのがちょっと残念。見ているあいだ、何となく『ファイナルファンタジー』みたいな筋書きだなと思ったりもした。

ウェブを巡ってみたら「こんなのゾンビじゃない」みたいな感想(ゾンビ原理主義?)も結構出ているようだけれど、僕は最近WOWOWで放映していた1978年の『ゾンビ』(Dawn of the Dead)をいまさら見て感心した程度の薄い観客なので、こだわりなく普通に愉しめた。(ちなみに『ゾンビ』は素晴らしい傑作だった。これはみんな真似したくなるのも無理はない)[★★★★]

■『ハッカビーズ』(監督: デヴィッド・O・ラッセル)

これはもう、映画の作り手だけが「知的な諧謔」だと思い込んでいる寒いおふざけが延々と繰り広げられるというひたすら空疎な映画だった。コメディなのに2時間くすりとも笑えるところがない映画というのは何なのだろうか。ウディ・アレンの不肖の息子という感じ。[★]

2005-09-01 00:34 [topic] | Permanent link | Comments (0)