2005-05-24

米国TIME誌の選ぶ名作映画100本

選出作品リストを見ると、セルジオ・レオーネが2作入っていて(『続・夕陽のガンマン』と『ウエスタン』)人気あるんだなあと思う。意外にコーエン兄弟の『ミラーズ・クロッシング』が選ばれていたりする。

2005-05-24 08:00 [topic] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-23

『Q&A』 恩田陸

Q&A

幻冬舎 / ISBN:4344006232 [amazon]

事件の核心には誰もたどり着けないまま、その周りで関係者があれだこれだと証言を連ねて、我々読者はそれを間接的に伝え聞くことしかできない……つまり『エレファント』のガス・ヴァン・サント監督が言う「群盲象を撫でる」状態だ。恩田陸という人はこの状況が揃えば、きっとどこまでも話を書き継ぐことができるのではないだろうか。

似た趣向の『ユージニア』のほうが全体の構成が凝っていて個々のエピソードの密度も上回っているとは思うけれど、この作品の無個性な街中のスーパーマーケットという舞台設定の良さや、地下鉄サリン事件をそのままなぞったような展開が出てくる不敵さ(村上春樹の『アンダーグラウンド』を参考にしているんだろうか……)も捨てがたい。後半になるといつのまにか電波・陰謀論が繰り出されて話が拡散していくところなど、ひとりで書いたリレー小説を読んでいるような感じもある。

恩田陸の作品では評判の『夜のピクニック』よりも、どちらかといえばこの『Q&A』や『ユージニア』のほうが興味深く読めるのだけれど、それはこの2作品が恩田陸の小説作法そのものを作品の構造として取り入れているように見えるからだ。読者は物語の中心にいつまでも直接触れることはできず、その周りをぐるぐると巡り続けるしかない。舞台になるスーパーマーケットの建物は巨大なブラックボックスのように思えてくる。しかし、それをむりやり開けようとしても仕方ない。ヒッチコックのいわゆる「マクガフィン」みたいなもので、そもそもそこには最初から何も入っていなかったはずなのだ。

2005-05-23 22:52 [book] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-22

『バタフライ・エフェクト』

The Butterfly Effect / 2004年 / 監督: エリック・ブレス、J・マッキー・グルーバー

おお、これは意外に悪くないドラえもん映画。たぶん趣向を何も知らずに見たほうが楽しめるので、未見の人は以下の文章を読まないほうがいいかも。

.............................

内容はいわば「『リプレイ』もの」、過去のある時点を改変したことによる展開のバリエーションと試行錯誤を見せる話で、完全に脚本主導の映画。SFでよくある定型の話を地味な(荒唐無稽でない)道具立てと暗めのリアルな映像で語り直した作品という点で、今年見た映画では『エターナル・サンシャイン』がわりと近い。個人的にはこちらの『バタフライ・エフェクト』のほうが前知識がなかったせいか面白く見られた。ただ、前半はこれをどこまで続けられるんだろうと期待したのだけれど、ワンアイディアの話なので後半は多少もたついて長く感じるのと、結末も変に教条的で少々まとめかねた感じがあるのは否めない。

主人公が精神科の治療を受けているという設定なのがひとつ面白いところで、物語上の分岐点になるのがよく「少年時代のトラウマ」として描写されがちな事件なのもそれと適合している。『ミスティック・リバー』などに代表される、少年時代の悲劇が俺たち幼なじみの運命を決定付けてしまった……という重苦しい話のパターンを、もしその事件に介入できたら運命はどう変わるか、というSF的な「if」の視点を持ち込むことで解体していく感じがある。そうすると、やはりこの映画の結末は後ろ向きで弱い気もするのだけれど。

全体に陰影の濃い映像は好み(撮影: マシュー・F・レオネッティ)。

監督・脚本のエリック・ブレスとJ・マッキー・グルーバーは、次作にドン・ウィンズロウの『ストリート・キッズ』(A Cool Breeze on the Underground)の映画化(IMDb)を予定しているようだ。ついでに、『バタフライ・エフェクト』続編の"The Butterfly Effect 2"(IMDb)の製作も企画されているそうで、まだやるつもりなのか……。[★★★★]

2005-05-22 22:43 [movie] | Permanent link | Comments (2)

声の名優百選

YAMDAS現更新履歴 - 映画史上に残る「声」百選より。映画史上で声が印象に残る俳優100人を選出した企画。選出には当然異論も出るだろうけど、あまり他で見かけない切り口の気がするので面白い。1位クリント・イーストウッド、2位オーソン・ウェルズとのこと。ホリー・ハンターが9位(現役女優だけなら1位)に入っているのは「インクレディブル夫人」効果だろうか。

上の記事には選出されてないけれど、僕が現役の俳優で声の良い人といってまず思い浮かべるのはケヴィン・スペイシーで、彼の「語り」で成り立っている作品というのもいくつかあるし、『交渉人』なんかは内容がたいしたことなくてもケヴィン・スペイシーの声が全編を通じて響きわたるだけで満足だった。

ついでに現役の女優だと、あまり言われない気がするけれどキルステン・ダンストの声がいかにもアメリカン・ガールという感じで結構好き。この人は『魔女の宅急便』英語版でキキ役の声を吹き替えているらしい。

2005-05-22 00:29 [topic] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-21

『ザ・インタープリター』

The Interpreter / 2005年 / 米国 / 監督: シドニー・ポラック

脚本にスティーヴン・ザイリアン、撮影にダリウス・コンディが参加しているのでそれなりに期待していたのだけれど、いまひとつの内容。

国連本部に渦巻く謀略、という題材を絵空事のスリラーの設定としてだけではなく、ある程度真剣に取り上げようとしているのが中途半端で上滑りしている。ニコール・キッドマンが実はアフリカの某国出身で反政府テロ組織とつながりがあるらしい、なんて言われても「え、何の話ですか?」としか思えないし、ショーン・ペンの抱える喪失感はいかにも取って付けた設定のように見える。俳優が深刻ぶって演じれば演じるほど白々しく見えてしまうという点で、ショーン・ペンとナオミ・ワッツの共演した『21g』を思い出した。

共演といえば、この映画はニコール・キッドマンとショーン・ペンが会話する場面ではやたら小刻みの切り返しが続いて、ふたりの顔が同じ画面におさまったのをろくに見た記憶がない(鏡ごしにショーン・ペンの顔が画面に入っている場面はあったけれど)。いまや大物になった同士の共演ということで、『ヒート』みたいな方式なんだろうか。[★★★]

2005-05-21 23:54 [movie] | Permanent link | Comments (0)

今年のカンヌ映画祭出品作の評判

この星取表を信用すると、今のところコンペ部門ではガス・ヴァン・サントの"Last Days"とダルデンヌ兄弟の"L' Enfant"が軒並み高評価、あとクローネンバーグとハネケあたりも続いて好評という感じか。実は一番人気なのがコンペ外のウディ・アレンの新作"Match Point"(スカーレット・ヨハンソン主演)で、アレン久々の快作なのかもしれない(ウディ・アレンは作品に優劣をつける趣向が好きじゃないので、コンペ部門への出品は辞退しているらしい)。いずれにしても、評判の良さそうな作品がいくつもあるので日本公開されるのが楽しみ。

2005-05-21 08:14 [topic] | Permanent link | Comments (0)

『キングダム・オブ・ヘブン』

Kingdom of Heaven / 2005年 / 米国 / 監督: リドリー・スコット

このご時世にわざわざ中世の十字軍を取り上げたうえで、イスラムの英雄サラディンを讃え、エルサレムの束の間の和平をキリスト教徒側の偏狭さが反故にしてしまったことを嘆く……という結構な野心作なのだけれど、どうも展開がぎこちないのが惜しい。主役のオーランド・ブルームが「平民(鍛冶屋)→騎士→英雄」という急展開の出世を遂げるにもかかわらず、転機となる場面が充分に示されないので「突然、英雄になった」ようにしか見えない。『ギャング・オブ・ニューヨーク』のレオナルド・ディカプリオのようだと思ってしまった。もともとエルサレム王とサラディンを賢君・英雄として見せるための狂言回しの役割なのだとしても、これでは性格付けが不充分だと思う。ヒロインのエヴァ・グリーンはさらに終始何を考えているのかわからず、主人公の中東旅行の「景品」の役割くらいしか果たしていない。

とはいえ、例えば『ラスト・サムライ』みたいな「いや、そんなものを賛美されても……」という困ったことはしていないので、そこは安心して見られる。騎馬戦と攻城戦(というか投石機合戦)はとにかく規模が大きくて壮観なので、一見の価値はあるかもしれない。実を言うとこういうのはつい「どこまでがCGなんだろう?」と終始疑うようになってしまったのだけれど。

仮面のエルサレム国王は風格があって、誰なのかと思っていたらエドワード・ノートンだったのか。この役で助演男優賞とか獲ったら格好良い。[★★★]

2005-05-21 00:18 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-19

『レディバード・レディバード』

Ladybird Ladybird / 1994年 / 英国 / 監督: ケン・ローチ

『誰も知らない』を見たらケン・ローチの映画を見たくなったので、ビデオを借りてきた。この日本版ビデオの発売元はシネカノンで、『誰も知らない』の配給会社もシネカノン。一貫している。どちらの作品にも共通する問題提起が、DQNな母親は子供を育てられるのだろうか?ということだったりする。

子供を産んでも産んでも官憲に取り上げられてしまう母親の話で、このジョージ・オーウェル的な状況がリアルに現出してしまうというだけでも驚く(実話に基づいているらしい)。やっぱり英国の人は行政組織の不気味さを切り取るのが巧い。犯罪者が更正できるとしたら、母親失格の烙印を押された人はどうすれば母親としての権利を回復できるのだろうか?

ただしこの映画は単に社会制度を糾弾するという図式には陥っていなくて、主人公の落ち着きのない言動、見境なく切れまくる様子はいっそ不快でさえある。これだけ気に障る人物を終始見せられながら、最後までこの主人公を心底嫌いになることはできない。[★★★★]

2005-05-19 23:19 [movie] | Permanent link | Comments (19)

2005-05-17

『ブルー・レクイエム』

Le Convoyeur / 2004年 / フランス / 監督: ニコラ・ブクリエフ

毎日大金を運びながら自分の将来の展望は暗く、運が悪ければ強盗に襲われる危険に晒されて命の保証もない、さらに不景気で会社が潰れて職を失いそう……という現金輸送車の警備員の日々をひたすら陰鬱に描いたフランスのスリラー映画。主役の親父が無口で、映画全体も必要最小限のことしか説明しない、というストイックな語り口が貫かれていて、なかなかの秀作だった。緑がかった薄暗い画面も内容の救いのなさに良く合っている。

強盗団が繰り返し同じ警備会社の現金輸送車を襲撃するに違いない、という無理めの前提に映画全体の筋書きが乗っかっているのと(一応作中で説明がついてはいるけれど)、フラッシュバックの入れ方が安易に感じられたのが多少気になるものの、作品全体の印象は悪くない。

冒頭にミュージシャンをめぐる軽口の会話が出てきて、現金強奪事件の後始末として内通者探しが進められる、という点はタランティーノの『レザボア・ドッグス』と共通するけれど、こちらはいわばプロレタリア的な視点から犯罪を描いたスリラー映画で、内容も暴力の描き方もまったく異なる。

監督・脚本のニコラ・ブクリエフはマチュー・カソヴィッツ監督の『アサシンズ』の脚本に参加していた人らしい。『アサシンズ』は未見だけれど、この作品の下層生活者の視点から社会を切り取って救いのない出来事を描くという指向は、カソヴィッツの『憎しみ』と通じなくもない。

シブヤ・シネマ・ソサエティで鑑賞。たまたま公開初日に見に行ったにもかかわらず、客席はまばらだった。[★★★★]

2005-05-17 21:43 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-16

『誰も知らない』

amazon: 誰も知らない

2004年 / 日本 / 監督: 是枝裕和

CSで放送されていたのをいまさら見たのだけれど、これは素晴らしかった。

「誰も知らない」……と言われると、「小さな国」と続けたくなる。秩序をもたらす大人のいなくなった世界で子供はどのように生きていくだろうか、という問題は『二年間の休暇』(『十五少年漂流記』)や『蝿の王』をはじめとした物語で古くから探求されてきたものだけれど、東京の片隅を舞台にしてそれをとことんリアルに再現するとこうなるのかと思う。それが全然嘘臭くならずに再現できてしまうのが驚き。東京のありふれた街並みが、「誰も知らない」子供たちの目線でサバイバルの場所として切り取られる。見慣れた世界を別の視点から見直していく、というのは映画の面白さのひとつだと改めて実感できる。主人公の少年はそのうち、文明社会から外れたハックルベリ・フィンのようにも見えてくる。

大人の支配が届かない子供だけの世界は、子供たちからするとただ悲惨なだけではなくモラルが消失した一種の「楽園」でもあるはずで(イアン・マキューアンの『セメント・ガーデン』ではそのあたりの感じが描かれていた)、この映画もその点を等分に目配りして描いている。そこに限らず、この映画では登場人物の行動を一切裁かないであるがままに見守る、という態度が徹底されている。

ちなみにこの映画がモデルにしたという巣鴨の子供置き去り事件は、「MURDER IN THE FAMILY」の紹介記事を読むかぎりではどちらかというと『蝿の王』に近い陰惨な世界だったようで……現実は厳しい。これを知らないで映画を見て良かった気がする。[★★★★★]

2005-05-16 22:40 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-12

『タイトロープ』の底知れぬ闇

『タイトロープ』のアリソン・イーストウッドがソンドラ・ロックに似ているのではないかという話は、探してみたら渡辺祥子と宇田川幸洋の対談「私たちが敬愛するクリント・イーストウッド!」でも話題に出ていた。

渡辺 宇田川さん、『タイトロープ』('84)を入れてよ! あの変態映画(笑)。

宇田川 あれはアブナイ(!?)映画ですよねぇ(笑)。製作と出演だけで、監督はしてないけど、彼のヘンな趣味がすごく出ている映画。シビれました。好きですよ。

渡辺 だって、娘のアリソン・イーストウッドが子役として出てるんだけど、あれを見ると誰だって自分の子供を偏愛してるアブナイ親だと思うわよね(笑)。あの娘、彼の恋人だったソンドラ・ロックにそっくり!

やっぱり誰でもそう思うのか。まあ、女の趣味が一貫しているということなんだろうね……。

デビュー作『愛すれど心さびしく』(というか『心は孤独な狩人』)のソンドラ・ロックはまだ女性として目覚める前のような中性的な魅力があるのだけれど、『タイトロープ』のアリソン・イーストウッドにも年齢(12歳)からしてそれに通じる感じがある。同じく南部を舞台にした映画でもあるし、『タイトロープ』は深い映画だなあ。

という下世話な点を除いても、『タイトロープ』は全編が闇に覆われた「暗闇のスリラー」という感じの良作だったのでお薦めできる。たしかイーストウッドの新作『ミリオンダラー・ベイビー』も、予告を見るかぎりでは似たような陰影の濃い映像で撮られていた。

2005-05-12 23:07 [topic] | Permanent link | Comments (1)

カンヌ映画祭開幕

日本時間では本日から開幕。第58回カンヌ国際映画祭 - FLiXムービーサイトでコンペティション部門の上映作の一覧を眺めると、常連監督の新作が並んで、あと賑やかし(?)の活劇がいくつか入っているなか、我らの『バッシング』が異彩を放っているような……。

アトム・エゴヤンの新作"Where the Truth Lies"は何となくミステリ風なので期待してみるか。

【追記】上のサイトはだいぶ抜けがあるみたいなので、Cannes 2005 Feature Films In Competition(公式)とか見てから読む?映画の原作の記事のほうが良いかも。

2005-05-12 21:26 [topic] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-11

『タイトロープ』

amazon: タイトロープ

Tightrope / 1984年 / 米国 / 監督: リチャード・タグル

監督のリチャード・タグルは『アルカトラズからの脱出』の脚本を書いた人。実際には主演のクリント・イーストウッドが撮影現場を仕切ってほとんど実質監督したような作品らしい。

冒頭からものすごく陰影の濃い映画で驚いた。ここまで極端に映画全体が暗闇に覆われていて、人物の顔が影に隠れても平然と撮っている作品も珍しいんじゃないだろうか。夜の場面が色々なバリエーションで綺麗に撮られていて素晴らしかった(撮影: ブルース・サーティーズ)。

主人公のイーストウッドの周りはたいてい暗闇に包まれていて、彼が連続殺人の犯人と心理的に繋がっていることも暗示されるけれど、主人公の娘を演じるアリソン・イーストウッド(実の娘)が出てくる場面では必ず彼女に対して光が当たっている。つまり、暗闇の世界に惹かれる主人公を光の側に繋ぎ止めているのが娘の存在だということだろう。

話としてはイーストウッドがひたすら売春宿を訪ね歩いて犯人と追いかけっこをするというものなので、多少起伏には乏しいけれど、画面を見ているだけでも飽きなかった。まあ、俺の周りで必ず事件が起こり、女が次々と現れ、もちろん健気で可愛い娘も見せびらかす、というイーストウッドの俺様映画ではあるので、その前提を許容できないとつらいかもしれないけれど。

南部の夜の殺人事件と奇妙な住民たちという題材は『真夜中のサバナ』、捜査官がサイコキラーにつきまとわれるという筋書きは『ブラッド・ワーク』で、それぞれ語り直される。特に『ブラッド・ワーク』は本作の再話という感じがする。

アリソン・イーストウッドは心なしかソンドラ・ロックに感じが似ていて、結構可愛く撮られている(ソンドラ・ロックと血の繋がりはないらしいけれど)。[★★★★]

2005-05-11 23:48 [movie] | Permanent link | Comments (0)

『ミリオンダラー・ベイビー』 F. X. トゥール

amazon: ミリオンダラー・ベイビー

Million Dollar Baby: Stories From The Corner / 東理夫訳 / ハヤカワ文庫NV / ISBN:4-15-041082-8 [amazon]

F. X. トゥールの短篇集『テン・カウント』が映画公開に合わせて文庫化されたので読んでみる。

リングの周りにいる人物の視点からボクシングの過酷な世界を描いていく短篇集。1話目の「モンキー・ルック」でカットマン(リングサイドでボクサーの止血をする役目)の視点が示されるせいか、戦う人間を美化しないで即物的に「肉体」として描いていくのが印象に残る。意志(文章)と肉体がそのまま結びついている感じがする。もともとヘミングウェイの小説に言われた「ハードボイルド」というのはこんな感じを指していたのだろうか、と思った。

この世界では、自分の意志によってどこまで肉体を鍛えてコントロールできるかが誇りにつながる。「ミリオンダラー・ベイビー」の後半の展開は映画化されたとき一部で論議を呼んだそうだけれど、この主人公はその最大の誇りを失った自分を受け容れることができないと感じたということなんだろう。

この小説に描かれるボクシングの世界ではときに卑劣な不正が行われて、法を超えた個人の倫理によって結末がつけられる。これは自警団ハードボイルドの世界に通じる(いわゆる「裁くのは俺だ(I, The Jury)」というやつ)。この本の最後に収録されている中篇「ロープ・バーン」(著者のデビュー作になった作品とのこと)は、1992年のロドニー・キング事件と人種暴動で無法地帯になったLAを舞台にしていて、その点がわかりやすく出ている。そう考えると、この作品の映画化を手がけたのがクリント・イーストウッドだったのはまさに適役のように思えてくる。イーストウッドは『ダーティハリー』から『ミスティック・リバー』まで、法を超えた解決は肯定されるのか?という問題をよく描いてきた人なので。

ちなみに、短篇「ミリオンダラー・ベイビー」には映画版のモーガン・フリーマンにあたる人物が出てこない。映画版の脚本では本書収録の別の短篇から登場人物を引っ張ってきているらしい(主役がふたりともあまり喋らない人物なので、「語り部」が必要になったのではないかと思う)。面白い脚色をしているようで、まだ見ぬ映画版にも期待が高まる。

2005-05-11 00:37 [book] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-09

『憎しみ』

amazon: 憎しみ

La Haine / 1995年 / フランス / 監督: マチュー・カソヴィッツ

冒頭の「50階から飛び降りた男の話」の語りかけを聞いて、この映画の作り手は本気だ、と直感したので襟を正して見る。その期待は最後まで裏切られなかった。

最近はもっぱら『アメリ』のビデオ店員として知られるマチュー・カソヴィッツだけど、これが評判を呼んで監督としての出世作になったというのも頷ける。

黒人音楽のリズムに乗せてストリートの若者たちの生活を描く、いわばフランス版のスパイク・リーのような印象の作品だけれど、単なる借り物ではなくて主人公たちの現実感を描くために手法を自在に使いこなしている感じがある。(他にもマーティン・スコセッシやジム・ジャームッシュなど、いわゆるニューヨーク派の映画の影響が見える)

主人公たちはパリ郊外の低家賃住宅(団地)に住んでいるユダヤ系、アフリカ系、アラブ系の青年三人で、ここの様子はかつてジャン・ヴォートランの小説『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』『鏡の中のブラッディ・マリー』で描かれていた。ヴォートランの小説でもそうだったように、ここの住民は誰も自分の現在の生活に満足していない。モノクロの映像が、華やかに見えるパリの裏側には彼らの抱えるくすぶった閉塞感があることを伝えていて説得力がある。

主人公のヴィンス(ヴァンサン・カッセル)が拾った拳銃を手放そうとしないのは、そうした退屈な日常生活を突き破る解放感を得たいからだろう。映画というのは非日常の可能性を描くものだと思うけれど、この銃はまさに日常から非日常の世界につながる鍵として映画を成り立たせている。逆にアフリカ系のユベールがあくまで銃に興味を示そうとしないのは、彼が音楽を操ることで自分なりに「非日常」の瞬間を得られる才能を持っているからに違いない。(部屋から飛び出した音楽が団地の壁に反響していく場面は美しい)

ただし、この映画で「団地」は単に荒廃した吹きだまりとして描かれるばかりではなくて、異なる人種がお互いの違いを認めながら分け隔てなく付き合える、そんな関係の発生する場所としても描写されている。

映画内で「憎しみは憎しみを呼ぶ」「大事なのは落下ではなく着地だ」といったメッセージがそのまま語られて劇中の出来事と結びつく、このあたりは生意気にも「青いな」と感じてしまうのだけれど、これを撮ったとき監督・脚本のマチュー・カソヴィッツは27歳だったそうで、それならわかる気もする(いまの自分と同年齢ですが……)。その年齢ゆえの切迫感が良い方に出た作品だと思う。[★★★★]

2005-05-09 07:53 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-07

『ライフ・アクアティック』

The Life Aquatic with Steve Zissou / 2004年 / 米国 / 監督: ウェス・アンダーソン

いんちきくさい「海洋ドキュメンタリー」を作る映画監督を主人公にして、その怪しげな映画製作の内幕を描く……つまり、フェイクにフェイクを積み重ねることで真実に迫ることができるのではないかという映画。いかにもアメリカの若手作家が頭の中でこねあげたような作品で、面白くなかった。僕はこの監督の作品では世評の高い『天才マックスの世界』よりもビル・マーレイが出ていない主役でない『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のほうが愉しめたくちなので、ビル・マーレイを好きかどうかでも評価が分かれるのかもしれない。スパイク・ジョーンズとチャーリー・カウフマンの『アダプテーション』もそうだけど、中身がないのに「外し」だけやってもしょうがない気がするんだけどなあ。

主役格のビル・マーレイやオーウェン・ウィルソンが「俺たちがこんなくだらないことをやるなんてクールでしょ?」というぬるい馴れ合い気分を振りまくなか、雑誌記者役のケイト・ブランシェットだけが良かった。ブランシェットは『アビエイター』のキャサリン・ヘップバーン役をそのまま持ち込んだかのような喋り方で、「チーム・ズィスー」のユニフォームなんて着なくても「底なしの虚構」みたいなのを余裕で体現できているのに空恐ろしさを感じた。ビル・マーレイとオーウェン・ウィルソンの半端な親子ごっこなんてどうでも良いので、ケイト・ブランシェットをもっと映してほしかった。

ところで、恵比寿ガーデンシネマでこの映画と同時上映されているのがウディ・アレンの『さよなら、さよならハリウッド』なのだけれど、どちらも「落ち目の映画監督」を主人公にしてその映画製作の内幕を描いた作品で、疎遠にしていた「息子」と和解したり、若い女性記者が取材に来る……など、妙に共通点が多い。

ちなみにこの映画を見て、ウィレム・デフォーはマーク・ウォルバーグを超えるチンパンジー顔であることに気がついた。[★★]

2005-05-07 21:12 [movie] | Permanent link | Comments (2)

『甘い人生』

Dalkomhan insaeng / 2005年 / 韓国 / 監督: キム・ジウン

近所の映画館では昨日まで1番大きなスクリーンにかかっていたので、駆け込みで見に行った。イ・ビョンホンが無愛想な主人公を演じるギャング映画で、夜の光景と飛び散る血しぶきが美しい。主人公が理不尽な虐待を受けてその理由を探そうとするところは『オールド・ボーイ』と似ていなくもない。

主人公がボスの愛人の監視を仰せつかる……という発端だけで大体の筋書きが読めてしまうし、そもそもその依頼がいかにも映画のためのようでわざとらしいとか、男たちの争いの元になるヒロインにあまり魅力を感じられないとか(何故にビョン様があんな女に情けをかけたために身を滅ぼさねばならんのか……)、いくらなんでもイ・ビョンホンが不死身すぎるとか、気になる点も多くて定型の域は出ていないように思うけれど、画面は綺麗に撮られているので見ていて心地良かった。シリアスな場面に微妙なずっこけ要素を入れているのが巧い配分で、感情過多にならずに引っ張られる。後半の凄惨な暴力描写もなかなか決まっている。[★★★]

2005-05-07 20:14 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-05

『エレニの旅』

Trilogy: The Weeping Meadow / 2004年 / ギリシャ・フランス・イタリア / 監督: テオ・アンゲロプロス

そろそろアンゲロプロス作品に入門でもしようかと思っていたところ、ちょうど新作が劇場にかかっていたので見に行ってみた。しかし、これは失敗作じゃないだろうか……。

両世界大戦前後のギリシャ現代史を背景に、歴史に翻弄されるヒロインの受難を描くという映画なのだけど、個々の場面は端正に造型されていていて見ごたえがあるにしても、物語の流れがないので悲劇が場当たり的に起きているようにしか見えない。さして生活を描かれていない村が突然水没してしまったり、ろくに出てこない双子の息子がいつのまにか戦死していたりしても、それは形だけの「悲劇」にしかならなくて、観客が作中人物の悲痛や喪失感を共有することはできないだろう(しかもどうして「双子」なのかと思ったら、ただ単に内戦で敵味方に分かれるという類型に当てはめたかっただけみたいで……)。そもそも同じ時代に似たような苦難を味わった人はたくさんいるだろうに、どうしてこの主人公たちが特別に取り上げられるのかわからない。

ただし、「地下音楽会に父親が侵入→里に戻って犠牲の羊を見る」までの一連の場面は見事な撮り方だった。このあたりの場面はカメラがゆったりと動いて、あくまで切り返しはしないので登場人物と観客の視野にずれが生じるのが面白くて、これがよく言われる長回しとワンシーン・ワンカットか……と感心した。たしかにすごいものを見たような気になる。画面の構図も絵画的で見惚れる。

画面を汽車が何度も横切る。平凡な解釈だけど、汽車は「抗えない運命」を象徴しているということだろうか。

ということで、見るべき点もあるとは思うのだけれど、後半は一本調子の「悲劇」が続いてあまりに苦痛だったということで。[★★★]

2005-05-05 20:11 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-04

『北国の帝王』

Emperor of the North / 1973年 / 米国 / 監督: ロバート・アルドリッチ

時は大恐慌時代、無賃乗車の常習犯リー・マーヴィンと鬼機関士アーネスト・ボーグナインが汽車の上で死闘を繰り広げる!……と、もはや史実に即しているのかも定かでない「男の対決」が過剰に自己目的化した映画。というか、あの汽車は誰が動かしているんだろう。

とても変な題材、かつ登場人物が皆狂っている映画で面白かったけれど、リー・マーヴィンに弟子入りしようとする若者の役割がいまひとつ生かされていないとか、大雑把で気になる点もある。どちらかというとビデオを探すよりテレビ東京の昼間に偶然やっているのを見て愉しむ映画のような気もする。[★★★★]

2005-05-04 21:56 [movie] | Permanent link | Comments (0)

『ウエスタン』

amazon: ウエスタン

Once Upon a Time in the West / 1968年 / イタリア・米国 / 監督: セルジオ・レオーネ

英語題にも示されているけれど、ここまで行くともう活劇というより叙事詩ですね。イタリアで西部劇を夢想しながら作るというのはもとから虚構をはらんだ枠組みなわけで、そこに失われた過去の時代をありありと再現するという趣旨が相乗効果になって、リアリティを超えた奇妙な感動をもたらしてくれる。エンニオ・モリコーネの音楽は、かつてありえたかもしれない、でも映画の中にしかない西部開拓時代の風景を追憶する気分に満ちている。

今回はチャールズ・ブロンソンが「名前のないヒーロー」の座を与えられているけれど(IMDbによると役名が"Harmonica"だ……)、男たちの争いの中心にクラウディア・カルディナーレの演じるヒロインが登場してくる。この体格の良いヒロインの存在は、土地に根を下ろして将来を築いていく生き方を象徴していて(背後にある鉄道敷設の計画も同じ)、流れ者たちが争う血なまぐさい時代はもう終わりを迎えるだろうことが示される。

例によってレオーネ監督の演出は対決場面でゆったりと見栄を切るので長尺になっているけれど(あと個人的には、「滅びゆく男の美学」みたいなのにさほど興味が湧かないのも否めない)、絵になる場面がふんだんにあって退屈はしない。西部劇の枠組みを超えた名作といってもいいのではないかと思う。「『ウエスタン』の素晴らしき世界」の記事で指摘されている「西部劇版ビスコンティ」というのは、言われてみるとなるほどと思った。

シナリオの原案はセルジオ・レオーネ、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチの合作によるものらしい。いま見るとえらく豪華な顔ぶれなので驚く。[★★★★]

2005-05-04 21:10 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-03

『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』

Thirteen / 2003年 / 米国・英国 / 監督: キャサリン・ハードウィック

『ウィズ・ユー』『シモーヌ』で可愛かったエヴァン・レイチェル・ウッドが、濃いメイクをして舌やへそにピアスをつける反抗期の少女を演じる。「あの娘がこんなことに……」という映画。主人公を不良少女の道に誘い込む友人の役で出演しているニッキー・リード(1988年生まれ)の実体験をもとにした映画化なのだそうで、脚本はニッキー・リードと監督のキャサリン・ハードウィックの連名になっている。

思春期の少女の不安定さをリアルに再現した映画としては「まあ、こういうこともあるんだろうな……」という興味で見られるのだけど、逆に言えばどこにでもありそうな話で、この登場人物たちのどこに映画としてわざわざ描くような特別なところがあるのか、見ていてもわからない。十代の不安なんてのは多くの人が通過する時期で、当の本人にはそれぞれ深刻な事情があるのだろうけど、何か凡庸さを突き破るような要素がなければ「私はこうなって大変でした」という個人の体験記に終わってしまい、普遍的な共感を呼ぶような物語にはならないだろう。結局、この主人公の少女に何か特別な点があるとすれば、身近に映画関係者がいたので自分の実体験を映画として取り上げてもらえたということと、本人が女優として映画に出られるくらい見た目が良かったということだけなんじゃないだろうか。(ニッキー・リードの実の父親は『マイノリティ・リポート』などの映画の美術監督を務めているセス・リードで、そこから映画化の話が始まったようだ)

撮影監督は『アイ・アム・サム』『ホワイト・オランダー』などのエリオット・デイヴィスで、この2作品と似たような、全体に青みがかった手持ちカメラ風の粗い映像になっている(今回は母親役がミシェル・ファイファーでなくホリー・ハンターだけど)。これはいくらなんでも作為的な撮り方に感じるのと、被写体の俳優があまり綺麗に見えなくなるので、個人的には好みではない。ただ、思春期の不安な心理や家庭内の荒れた雰囲気を出すという意味で、この作品内での必然性はそれなりにあるとは思う。[★★★]

2005-05-03 08:21 [movie] | Permanent link | Comments (0)

2005-05-02

『ウィスキー』

Whisky / 2004年 / ウルグアイ・アルゼンチン・ドイツ・スペイン / 監督: フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール

珍しやウルグアイの映画ということで、去年の東京国際映画祭でグランプリを獲ったときから気になっていた作品。映画自体の出来もなかなか良かった。

独身の男女が体面を繕うために夫婦を演じることになる……という、人情コメディの定番のような筋書きなのだけど、とにかくうらぶれた場所と冴えない顔の人物しか出てこないのがいかにもウルグアイの辺鄙さを表しているようで面白い。登場人物か寡黙なのもあって、「南米版カウリスマキ」という評があったらしいのもうなずける。画面に映る室内の隅々まで生活感があって、ほとんど説明がなくても見ているだけで登場人物がこれまで積み上げてきた暮らしや性格が伝わるようになっている。丁寧に作り込まれた作品だと思う。

あくまで小品なので特に騒ぐような映画ではないけれど、ふらりと入った映画館でこんな作品がかかっていたら拾い物だろうと思える秀作。

幕切れは手堅い人情コメディとして締めるのかと思っていたので肩透かしのようにも感じたのだけれど、後から振り返ってみるとあれもありだったかなという気もしてきた。[★★★★]

2005-05-02 06:44 [movie] | Permanent link | Comments (1)

2005-05-01

『バッド・エデュケーション』

La mala educacion / 2004年 / スペイン / 監督・脚本: ペドロ・アルモドバル

メキシコの新星、ガエル・ガルシア・ベルナルを謎めいたファム・ファタル的な存在に仕立て上げる、つまり男色版フィルム・ノワールみたいなのを狙った映画。劇中の映画館でフィルム・ノワールの特集上映が催されているのがこれ見よがしに映されたりもする。

ガエル・ガルシア・ベルナルの肉体に注がれる熱い眼差しは徹底していて(いわゆる「ウホ!いい男」的というか……)、プールで泳ぐときに股間が見えそうで見えない、とかの際どい描写がこれでもかと繰り出される。女優に対する似たような演出は伝統的に許容されてきたのだから、男優のそれも受け容れなければならないのだろう……と頭では考えながらも、実感としてはやはり普段見慣れないものなので違和感を抑えるのがなかなか難しい。という、結構政治的な論点をはらんだ映画といえるかもしれない。(本当か?)

筋立てはメタフィクション的な仕掛けを入れているものの、結局過去の出来事を徐々に明かしていくミステリーの体裁を取っているので、特に後半は登場人物のわかりきったような回想を平板に再現するだけの説明的なものになってしまう。ショウビズ界の裏側を描いていて、フィルム・ノワールの枠組みを借りている……ということで思い出すデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』などを通過してきた身からすると、だいぶ物足りなく感じる。

物語の導入部は1980年で、そこからやがて事件の発端になる少年時代の記憶に遡ることになる。この寄宿学校時代は時期からするとフランコ政権下の話で、それ以降の物語は1975年のフランコ政権崩壊以降の出来事ということになる。フランコ政権時代の抑圧の反動として性的解放を描く、というのが根本にある作家なんだろうと思った。[★★★]

2005-05-01 23:22 [movie] | Permanent link | Comments (0)