10/10
■いまのところここの書評欄では五つ星の評価を採ることにしているけれど、本の評価で点数をつけることにはいろいろ否定論も根強いようだ。たとえば少し前の「ミステリマガジン」誌上で関口苑生が池上冬樹を難じて、文筆者なら評価はきちんと文章で表現しろ、という主旨のことを書いていたのなんかは否定論の代表的なもので、たぶんそれなりに正論なのだろうとは思う。しかし表現としてまったく利点がないわけではないだろう。まあそもそも無料で見られる個人ページと商業誌に載せる文章とではずいぶん話が違うわけだけれども、それは置いておくとして、少し点数評価のエクスキューズを考えてみることにしたい。
■まずミステリの場合とくに、どこがおもしろいのか本気で書いてしまうと、実際に読むときの意外さが減ってそんなにおもしろくなくなることが多い、という事情がある。いわゆる「ネタバレ」というやつだけど、犯人が誰かとかの致命的なものでなくても案外と興を削いでしまうことは少なくない。例えば「どこが意外かということ自体が意外」な話というのも結構あるもので、事前に知っていると「ああ、たしかに意外な展開だったな」と納得はするけど心底は楽しめてなかったりもするのだ。完全にそういうのをなくすのはたぶん無理なんだよね。だから僕はミステリの書評を読むとき、なんとなくその作品をどの程度推しているのか感じ取れればそれ以上は目を通さないことも少なくないし、そういうとき点数評価があれば話は早いわけ。ということで、点数にもそれなりの存在意義があると思うのだけど、どうだろう。要はより多様な読み方を許す余地ができるのでは、ということになるだろうか。
■もうひとつ、ミステリはおもしろさがある程度定式化されていて、わりと比べやすいというのも大きい。ジャンルを問わない書評で何でもかんでも点数化していたら頭を抱えてしまうものになりそうだけど、ほぼミステリのみを扱うのならそれなりに点数も意味のあるものになるんじゃないだろうか。でもまあ、これとこれはどちらが面白かっただろうか、なんて相対評価であまり悩みたくはないので、たぶん五段階以上に評点を細かく区切ることはないだろうと思うけど。なんせ面倒なので。


10/9
■こんど、ご存じ「このミステリーがすごい!」国内編の投票係を引き受けてしまったので、ひとまず締切り(11月4日)まで一心不乱に和物の新刊を読みまくらなければならないかも。実はまだ『白夜行』も『盤上の敵』も、ほかいろいろ有名なやつも、ほとんど読んでないっす。世の良心的な読者さんごめんなさい。ということで今月の読書録は国内のめぼしい新刊がけっこう充実することになると思います。なんだか読むことよりも、図書館派にはむしろ入手するほうが大きな課題になりそうな気がするけど。
■とりあえず、アンチ『永遠の仔』を標榜する僕としては、もうひとつの有力作『バトル・ロワイヤル』を1位に推すのはいまのところ既定路線。いちおう若者代表のひとりだし。でも『永遠の仔』は読者層が広いうえに、直木賞で落とされちゃってなにくそ、とかの追い風があるだろうから1位はまず堅いだろうな。あんなにみんな感動の一色になるほどのもんではないと思うんだけどなあ(直木賞の選評で口々に「長すぎ」と言われてたのはちょっとおかしかった。読むのがめんどくさかったのだろうか)。あとはあまり候補作がない。すでに読んだ『ハサミ男』『MISSING』あたりはまあまあ良かったので、他になかったら入れることになるだろうか。
■まあ、ほんとは誰も知らないようなのを入れられると格好いいんだけどねえ……